大阪府北部地震:吉村大阪市長「休校」ツイッター発信問題

2018年6月18日朝に発生した大阪府北部地震に関連して、吉村洋文大阪市長が事前のマニュアルを無視して「大阪市内の市立学校に対して一斉に臨時休校を指示」と一方的なツイッター発信をおこなったが、そもそも市長に指示権限があるのかどうかということから疑問が呈される状況で、また教育委員会は学校に対して公式の一斉送信メールで別の指示を出していたことで、学校現場と保護者に不要な混乱をさせた問題。

この問題については、

  • 学校の休校を決める権限があるのは誰か?そもそも市長に指示する権限があるのか?吉村市長は「超法規的措置」として正当化したが、この主張は成り立たないのではないか?
  • 市長のツイートは、事前の災害対策マニュアルに沿ったものか?
  • 市長ツイッターは市の公式情報発信なのか?個人ツイッターとの境界が曖昧ではないか?
  • 市長ツイッター以外の公式な場所からは情報が発信されていない。市の公式サイトや災害対策室・区役所など市の公式ツイッターからは特に情報が発信されず、また教育委員会からは学校に対して全く別内容の指示をおこなっていたことから、市長の思いつきではないか。

という問題が呈され、市長のスタンドプレーだと批判されている。

当日の時系列

2018年6月18日の大阪市内の各学校や大阪市・市教育委員会の動きを、報道の内容や各学校のウェブサイトの内容などを元に浮かび上がらせる。

午前7時58分

地震発生。大阪市内では震度4を記録した地域が大半であるが、市内の地域によっては最大で震度6弱を記録した。

当該時刻は児童・生徒の登校時間帯や教職員の出勤時間帯にあたる。

教職員らは各学校ごとに、以下の手法で児童・生徒の安全確保を図った。

  • 発災時点で学校にいた児童・生徒は運動場などに避難させる。
  • 通学路で地震に遭って、直後に登校した児童生徒も運動場などに避難させる。
  • 登校前でまだ自宅にいた児童生徒には自宅待機を指示する。
  • 教職員が校内巡視し、校舎の状況を確認。

災害発生時の臨時休校の判断は、一般的にいっても、法令上校長に権限がある。

学校教育法施行規則

第六十三条 非常変災その他急迫の事情があるときは、校長は、臨時に授業を行わないことができる。

大阪市立学校においては、大阪市地域防災計画により、地震発災時にかかる臨時休校の判断は、各学校で周囲の状況をみながら学校側(校園長)が個別に判断することが、学教法施行規則の内容を踏まえてより具体化するような形で明記されている。

大阪市地域防災計画 <震災対策編>(2017年11月改訂)

第2部 災害予防・応急対策 活動体制の整備 第6章 学校等 (143ページ)より抜粋

(1)授業時間中の対応
ア 教職員は、災害発生時、直ちに、幼児、児童、生徒(以下「児童等」という)の安全確保のため、必要な措置を講ずるとともに、負傷した児童等の応急手当や医療施設への連絡等の救護措置を行う。
イ 校園長は、あらかじめ定められた非常変災時※の措置基準に従い下校措置の判断を行い、教職員が児童等の保護者に連絡し児童等を下校させる。下校に際しては、保護者の不在、通学路・居住地区の危険性の情報収集を行い、安全の確認ができない場合は学校園に児童等を保護する。
※「非常変災時」・・・自然災害をはじめとする緊急事態全般

(2)授業時間外の対応
ア 校園長は、あらかじめ定められた非常変災時の措置基準に従い臨時休業措置の判断を行い、教職員をして児童等の保護者に連絡するとともに、児童等の状況について確認を行う。
イ 教職員は、あらかじめ定められた計画により学校園に参集し、必要な対応を行う。

市内の学校では「授業ができる状態ではないと判断した」などとして、学校判断で早い時間帯に臨時休校を決めた事例が複数あった。

市内北部のある中学校のウェブサイトより

強い地震のため自宅待機してください。登校した生徒は運動場に避難させています。(2018-06-18 08:17)

大阪北部に強い地震が発生し、午前9:00現在で交通機関も止まっているため、本日は臨時休校とします。登校した生徒は、9:20ごろから地域別に教員が付き添って集団下校します。(2018-06-18 09:14)

ある市立高校のウェブサイトより

本日の早朝に起こりました地震により交通機関がマヒしており、今後しばらく回復の見込みが立たないため、関係機関との相談し、臨時休業とすることにいたしましたのでお知らせいたします。
1.対象学級 全学年
2.休業日  平成30年6月18日(月曜日)

教務部(2018-06-18 09:58)

一方で、「余震の危険性も考えられる。そのまま帰宅させるより、避難所にもなっている学校にいさせた方が児童生徒の安全確保を図れる」という判断から、児童生徒の安否確認と校舎の安全確認が終了次第、教室に戻って校内待機の措置にしたり、通常授業を実施した学校も多かった。

市内南部のある中学校のウェブサイトより

登校している生徒、および校舎内について安全確認ができましたので、生徒が落ち着きしだい通常授業に入ります。
なお、本日の部活動については、18時完全下校にいたします。
余震など、状況が変わりましたら、また判断します。(2018-06-18 09:13)

市内東部のある小学校のウェブサイトより

地震発生後、登校してきた子どもたちの安全を確認したのち、教室等の安全が確認できましたので、現在、学習を進めています。本日は、1~3年生は5時間目終了後の午後2時過ぎに下校、4~6年は6時間目終了後の午後3時過ぎに下校する予定です。何か変更等がある場合は、追って連絡します。(2018-06-18 09:40)

月曜日ということもあり、日曜参観や宿泊学習などでの代休になっていた学校も数校あった。

午前9時7分

教育委員会、臨時休校については「各学校の状況に応じて判断してください」とする内容を市立学校に指示する一斉メールを、各学校宛に送信。

午前9時20分

吉村市長のツイッターから発信。

「教育委員会と相談の上」としたが、それなら、以下の午前10時の教育委員会通知と矛盾が出ることになる。

午前9時55分

NHK、9時半現在のまとめとして、大阪市では小中高校あわせて約460校中「小学校20校、中学校4校、高校2校の計26校が休校を決めた」と報じる。

午前10時

教育委員会、「すでに授業の方針を決めている学校では、そのまま授業をおこなってください」とする一斉メールを、各学校宛に送信。

一斉メールの内容を受けて、直後に「本校では通常通り授業を実施します」とする内容を、保護者宛一斉送信メールや学校ウェブサイトで告知した学校も複数あった。

また学校ウェブサイトでは、「報道などで情報が錯綜しておりますが、教育委員会からの指示に基づいて、通常通りの授業をおこないます」という趣旨を記載している例も目立った。

しかし、吉村市長のツイッターの影響で、ツイッターを見た保護者から学校への問い合わせが相次ぎ、学校側は対応に追われることになって情報が錯綜した。

授業継続の方針を決めていたある小学校の校長は、吉村市長ツイッターの内容をみた保護者からの問い合わせに対して、「市教委からは一斉休校にする連絡を受けていない。そういう指示は探しても見つからなかった」として、10時40分に市教委に連絡。市教委は「指示はない」と回答したという(当該校ウェブサイトより)。

午前11時4分

大阪市教委、吉村市長ツイッターでの混乱に押し切られるような形で、「全市一斉休校」を各学校宛に通知。

この影響で、午後まで通常授業を実施するとしていた学校の大半が、急遽午後からの予定を打ち切って、児童生徒を保護者引き渡しの上で下校させる、ないしは地域ごとに教職員の引率で集団下校させる措置に切り替えた。

そのため、学校側から再び予定を変更するという連絡を保護者に入れるような形にもなった。

一部の学校では、児童生徒の保護も兼ねて、通常の下校時間帯まで授業を実施した。

市内中心部のある中学校のウェブサイトより

18日午前7時58分に発生しました地震につきまして、大阪市教育委員会より、「臨時休業措置をとられていない学校につきましては、引き続き校内で安全確保のうえ、教育活動を継続してください」という指示がありました。
本校では、地震直後に校内の安全を確認し、通常通りの授業を行っています。
今後、大きな余震が起きるなど、状況に変化がありましたら、電話やメール、ホームページなどでご連絡いたします。(2018-06-18 11:01)

約30分後

メールとホームページで、「通常通りの授業を行っています」という連絡をいたしましたが、先ほど大阪市教育委員会より「大阪市の全ての学校を臨時休業にする」という指示が届きました。
 つきましては、昼食(給食または弁当)を食べた後、生徒を下校させます。
 下校時刻は13時過ぎくらいになると思います。
 安全な過ごし方について、ご家庭でもご指導いただきますよう宜しくお願い申しあげます。(2018-06-18 11:36)

市内北部のある中学校のウェブサイトより

 11時すぎに大阪市立学校園は臨時休業という報道がおこなわれお問い合わせをいただいているところですが、**中学校では、現時点から保護者連絡をとり早期下校措置をとるよりも、安全確保の観点から、6限まで通常授業をおこなうほうがベターであると判断いたしました。

■昼食あり(給食あり)=すでに無事に終了
■6限まで授業
■15時15分より終学活で注意喚起
■部活動・放課後取組・教育相談等はおこなわずに、15時30分前後に一斉下校

よろしくお願いします。(2018-06-18 13:25)

教職員・保護者の反応

報道によると、学校関係者は地震や吉村市長ツイッターに対して、以下のような反応を示したという。

 北区のある小学校長は、児童の登校後、すぐに休校を決断した。「泣きながら登校した児童もおり、余震があればパニックになりかねない」との思いがあった。保護者には一斉メールで連絡し、午前11時までにほぼ全ての児童が帰宅した。

 淀川区の小学校では地震発生時、児童のほとんどが登校途中だった。校長は「このまま帰宅させれば余震などの危険を伴う恐れがある」と判断、児童を校内で待機させた。市長のツイッターを見て児童を迎えに来た保護者がいたこともあり、午前10時半ごろ、休校を決めたという。

 一方、西成区の小学校では1限目から通常通り授業を実施した。教頭は「余震の危険がある中で子どもを帰し、一人で被災させる方が怖い。そんな大事なことをツイッターでつぶやかれても常にフォローしているわけではない」と戸惑いを隠さなかった。

(毎日新聞2018年6月21日『地震 大阪震度6弱 大阪市、割れた休校判断 市長「全校で」短文投稿、混乱』)

 地震の影響はないと判断して授業を続けていた中学校の校長は「いつ帰ってくるのかと保護者から問い合わせもあり、混乱した」と明かす。ある小学校では、市長のツイートとほぼ同時に「通常通り」とメールで保護者に知らせたため、学校に子どもを迎えに行くか迷う保護者がいたという。

(朝日新聞2018年6月21日『地震当日、大阪市長「全校休校」ツイート 一部で混乱』)

 市教委は当初、「休校は各校の判断で」と伝えており、市長の投稿後も授業を続けた学校もあった。同市平野区の市立中学校には投稿を見た保護者から「子供はいつ帰ってくるのか」といった電話が相次ぎ、同校の教員は「指示系統が2つに分かれた形になって困惑した」と振り返る。

(日経新聞2018年6月25日『災害時SNS発信で明暗、給水場所拡散、デマ投稿も』)

また、大阪市の学校に子どもを通わせている保護者や、大阪市立学校の教職員とみられるツイッターアカウントからは、吉村市長のツイッターで混乱が起きたと訴える声もある。

吉村市長の行動の問題点

学校の休校を決める権限があるのは誰か?

法令上は、校長の権限。

大阪市防災計画でも、学教法施行規則と齟齬のない形で校長が判断すると記されている。

市長のツイートは、事前の災害対策マニュアルに沿ったものか?

想定外。

市長ツイッターの市としての位置づけは?

 個人アカウントで、市としては内容に関知していない。

 吉村洋文大阪市長のツイッターは、市としてどういう位置づけになっているのか。

 ツイッターの活用という一般論と、吉村氏の個人ツイッターを「たまたま同氏が市長だったからなし崩し的に公式かのように扱う」という公私混同。

 市の公式ウェブサイトの内容を紹介する手段として、また公式ウェブサイトなどと併用や万が一の際の代替手段として、公式ツイッターなどのSNSも活用すること自体は、一般的にいえばありうる。

 大阪市の公式ツイッターは、「大阪市広報(@osakacity_koho)」「大阪市危機管理室(@kikikan_osaka)」「区役所(24行政区各区ごと)」などのアカウントが、市役所の各担当部署において運用されている。大阪市教育委員会のツイッターアカウントは開設されていない。(2018年6月現在)

 吉村市長のアカウントはあくまでも個人アカウントであり、市として公式のものではないという見解。しかし市長という立場上、ツイッターを見た市民・保護者が「市からの公式情報」「市役所内で正式な決定を下した情報」と受け取ってもおかしくない。一方で市の公式アカウント群からは、吉村市長アカウントで示されたような内容の発信はなかった。

 教職員にとっては、市教委からの公式メールなどの連絡手段ではなく、個人ツイッターの位置づけになっている市長ツイッターを勤務時間中に閲覧すると、職務専念義務違反に問われる危険性も出てしまう。教職員への伝達手段にはなりえない。