奈良県立高校演劇部性的虐待事件

奈良県奈良市の奈良県立西の京高校で1995年、演劇部顧問だった男性教諭が部員に「演技指導」と称して暴力や性的虐待を繰り返していたことが発覚した事件。加害者には実刑判決が確定している。

事件概要

顧問の男性教諭・I(1995年当時32歳)は少なくとも1992年から、演劇部の指導の際に「演劇指導」と称して、複数の演劇部員への暴行やわいせつ行為を繰り返した。

Iは1994年2月4日、演劇部員の2年生の女子生徒に対して、「練習時間に遅れた」などとしてこの生徒の頭を20回以上殴った上、腹部を拳で2~3回殴るなどした。この暴行で、被害にあった女子生徒は鼓膜損傷など全治9ヶ月のけがを負った。その際、Iは「親には本当のことをいうな。お前の将来ぐらいどうとでもなる」などと被害者を脅して暴行の隠蔽工作もおこなった。

Iの暴力行為については、以下のようなものが指摘された。

  • 通し稽古の際に殴る。被害生徒は殴られたはずみでドアの取っ手に顔をぶつけてけがをした。
  • 「指示通りに脚本を作れなかった」として20回以上平手で殴ったうえ、暴行の事実を隠すように強要した。
  • 「音響操作を間違えた」として20回以上殴った上、「足腰が立たないようにしてやる」と暴言を吐いた。
  • 「演劇指導」と称して、女子部員を別室に連れ込んで体を触るなどのセクハラ行為。

学校は暴力行為の一部を把握していたが、Iが「演劇指導」と強硬に主張したため、その主張を鵜呑みにしてそれ以上の調査をおこなわなかった。

被害者が1995年に「被害者の会」を結成し、奈良県教育委員会に被害を訴えた。Iは1995年9月下旬から自宅謹慎措置となり、奈良県教委が事実関係を調査した。しかしIは奈良県教委の調査に対して、自分の演劇論を延々と述べるなど言い訳に終始していたという。

さらにIは、演劇部員や奈良県教育委員会の調査に応じる生徒らに対して、「県教委に知り合いがいる。お前のしゃべったことはすべて耳に入る」(からIにとって都合の悪いことをしゃべるな)などと脅し、事実を隠蔽しようとした。またIは、保護者らに対して嘆願署名を集めるように依頼した。

奈良県教育委員会は1995年10月7日、Iを諭旨免職処分にした。

刑事処分

奈良県警奈良署は1995年10月9日、1994年2月4日の暴行事件などを理由に、Iを傷害容疑で逮捕した。

奈良地検は1995年10月31日、Iを傷害罪で起訴した。また奈良地検は1995年11月22日、「演技指導」と称して女子部員の体を触ったなどの強制わいせつ容疑で、Iを追起訴した。

公判では、Iは起訴事実を全面的に認めたものの、部活動への熱意や部員への思い入れなどを理由に情状酌量を求めた。奈良地裁は1997年2月26日、懲役2年6月の実刑判決を下した。Iは控訴したものの、二審大阪高裁で1998年3月18日、一審奈良地裁判決を支持し控訴を棄却する判決が出された。その後Iへの懲役2年6月の実刑判決が確定した。

民事訴訟

この事件では、被害者の部員らが、I個人と学校管理者の奈良県を相手取って損害賠償を求める訴訟を奈良地裁に起こした。Iは和解に応じて総額約1000万円の和解金を被害者に支払った。

しかし奈良県は「早い時期に学校側に相談していれば被害は少なく抑えられたはず」などとして過失相殺を主張し、訴訟の棄却を求めた。

奈良地裁は1999年12月1日、「当時の状況を考慮すれば、被害者が被害を訴えること自体がきわめて困難」と判断して奈良県の主張を退け、奈良県に約1100万円(原告側請求の満額)を支払うよう命じる判決を出した。県は控訴を断念し、この判決が確定して被害者側に賠償金を支払った。