日本の公立小中学校における学校選択制は、「就学校を指定する際に、あらかじめ保護者の意見を聴取して指定を行うもの」(文部科学省「学校選択制等について」)である。
児童・生徒および保護者の側からみれば、複数の学校から就学先の小中学校を選択できる形になる。
公立の小中学校では、自治体によって通学区域(校区)が設定され、住所によって通学先の小中学校が1校ずつ指定されているのが原則である。
従来は、いじめなどからの緊急避難、学校からの距離や交通事情などによる調整区域の設定など特別な事情のある場合を除き、原則として通学区域の弾力化は認められていなかった。
文部省(当時)は1997年1月27日付で、規制緩和の一環として「通学区域制度の弾力的運用について」とする通知を出し、通学区域を弾力化することを容認した。その後2003年4月1日付で「学校教育法施行規則の一部を改正する省令」が施行され、法的にも学校選択制の導入は容易になった。
2003年以降、自治体内の学校、ないしは自治体内をブロックに分けてブロック内の学校から児童・生徒・保護者の希望で自由に学校を選択できる学校選択制の制度が、各地で相次いで導入されるようになった。導入推進の主張としては、「児童・生徒が教育条件のよい学校や希望にあった学校を自由に選択できる」ということがあげられた。
しかしその一方で、学校選択の基準が地域の噂程度の曖昧なものに左右され、「学力テストの平均点が高い」「地域では進学校とみなされている特定高校への進学者数が多い」などといわれる学校へ人気が集中するなど、人気校と不人気校との格差が生まれるようになった。
人気校では学校規模の過密化で教育条件が低下する弊害が生まれ、また不人気校でも児童・生徒が減少することで従来の教育が維持できなくなり教育条件が低下する弊害が生まれている。
学校選択制を一度導入した自治体でも、弊害があったとして制度を中止するなどの動きも広がっている。
各地の具体例
- 長崎県長崎市:2005年度より校区に指定されている学校のほか、隣接校区の学校を選択できる方式での学校選択制を導入。しかしバスや自動車通学者の増加による地域コミュニティへの影響、坂の上にあるなど立地条件のよくない学校が「不人気校」となるなどの弊害が出たため、2012年度以降は一部例外を除いて原則廃止。
- 神奈川県逗子市:2005年度より学区希望制の名称で学校選択制を導入。しかし駅に近い・教室に冷暖房完備・校舎が新しいという条件のある特定の小学校への希望者が集中した。人気が集中した当該校では過密化により、特別教室を普通教室に改装して転用するなど教育条件悪化の弊害が生まれた。2009年以降当該校での希望者受け入れを停止し、また2011年度以降全市で制度を休止。
- 富山県富山市:2008年度より中学校の学校選択制を導入。しかし導入以降「地域で進学校とみなされている特定高校への進学者数が多い」とされる特定中学校2校への人気が集中。当該校では例年、受け入れ枠の2倍以上の希望者が殺到し抽選になっている。
- 群馬県前橋市:2004年度より小中学校で学校選択制を導入。しかし地域との関係が希薄化したことや、各学校ごとの生徒数の偏りが生まれるなどの弊害が生まれたとして、2011年度より廃止。
- 大阪市:維新市政が2012年に提案し、2014年度より導入。大阪市の学校選択制を参照。