丸子実業高校いじめ自殺事件

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長野県丸子実業高校(現・丸子修学館高校)1年の生徒が2005年に自殺し、所属していたバレーボール部でのいじめが指摘された事件。いじめ加害者とされた側やバレーボール部員が、生徒の母親を逆提訴する前代未聞の事態になった。

事件の経過

自殺した生徒は2005年度に丸子実業高校に入学し、バレーボール部に入部した。生徒は中学生時代に声帯に異常を発症し、大きな声が出せないなどの状況だった。バレーボール部の上級生は自殺した生徒に対し、生徒の声を真似てからかう・ハンガーで頭を殴るなどのいじめを継続的におこなうようになった。いじめが原因で生徒は不登校になり、病院で「希死念慮を発現しているなどのうつ状態がみられ、加療を要する」と診断された。

事情を知った保護者が学校側に善処を申し入れた。自殺した生徒も「いじめられている」と訴えた手紙を学校や長野県教育委員会に提出している。しかし学校側はいじめの事実を認めず、配慮をおこなわなかった。
学校側が「このままでは出席日数不足で留年となる可能性がある」という通知を発送した直後の2005年12月5日、生徒は自殺した。生徒は「いじめを苦にしている」と解釈できる遺書を残していた。

自殺した生徒をハンガーで殴ったなどいじめの中心とされた上級生については、自殺した生徒が生前に警察へ被害届を出していたこともあり、刑事事件としての捜査がおこなわれた。上級生5人は2006年5月に暴行容疑で書類送検され、その後家裁送致の処分となった。

自殺した生徒の母親は、「学校側の対応で精神的に追い込んで自殺に至らしめた」「記者会見などで自殺した生徒を中傷した」などとして、校長を殺人と名誉棄損容疑で告訴した。校長は書類送検されたが、不起訴処分となった。

自殺した生徒の遺族は2006年3月10日、いじめを中心的におこなった上級生・および学校を運営する長野県を相手取り、損害賠償を求めて提訴した。

前代未聞の逆提訴

一方でバレーボール部の顧問教諭や部員の保護者らは、事件発覚直後から「自殺は(異常な母親の存在による)家庭の問題が原因」「いじめはなかった。母親のでっちあげ」などと、自殺した生徒の母親への中傷を繰り返した。遺族宅には「(生徒は)自殺して救われた。大げさに騒ぐのはやめなさい」などと書かれた、差出人不明の嫌がらせの年賀状も届いたという。

遺族側からの損害賠償訴訟が進行中の2006年10月31日、顧問教諭とその家族・いじめを中心的におこなった上級生と保護者・バレーボール部員らが連名で、自殺した生徒の母親を訴えた。実質的には母親への逆提訴であり、このような「逆切れ」的な提訴は過去のいじめ事件にはみられない前代未聞のものである。

教諭や部員らは「いじめは母親のでっちあげ。虚偽の内容をマスコミに吹聴されたこと・嫌がらせの電話やファックスが顧問教諭宅に着信したこと・嘘のいじめや暴行事件をでっちあげられて警察の取り調べを受けたことなどの一連の行為で精神的苦痛を受けた。また部活動にも悪影響を受けた」などと主張した。

遺族側からの訴訟と逆提訴は関連訴訟として一体的に扱われることになり、審理が続いた。また被害生徒の母親は2008年10月、「逆提訴は訴訟の乱用以外の何物でもなく、逆提訴によって精神的に決定的な苦痛を受けた」などとして、逆提訴への反訴をおこなっている。

長野地裁は2009年3月5日、2つの訴訟に対する判決を出した。上級生の暴行を一部認め、上級生から母親に対して1万円の支払いを命じた。しかしその一方で逆提訴側の主張をおおむね採用し、母親に対して監督や部員ら23人へ計23万円の損害賠償を命じる判決を下した。

母親は東京高裁に控訴した。しかし2009年10月14日付で母親は控訴を取り下げ、一審判決が確定した。控訴取り下げの理由については、以下のように報じられている。

◆母親の元代理人は「母親は1審判決に落胆して続ける気力をなくしたのではないか」と話している。(毎日新聞2009年10月25日『御代田町の高1自殺:損賠訴訟 母親、控訴取り下げ 1審判決が確定 /長野』)
◆母親(45)は「裁判では真実が通らない。これ以上かかわりたくないので、今後は報道機関などを通じて訴えたい」とコメント。(読売新聞2009年10月24日『丸子実業いじめ訴訟母親側控訴取り下げ』)

母親が精神的に追いつめられて限界に達し、裁判を続けられないような状況に陥ってやむなく断念したことがうかがわれる。

当時の校長からの名誉毀損訴訟

当時の校長は遺族や代理人弁護士を相手取り、「殺人罪で刑事告訴されるなどして精神的苦痛を受けた」と主張して長野地裁上田支部に民事訴訟を起こした。2011年1月14日、「刑事告訴には客観的根拠はない」などとして校長側の訴えを認め、遺族や代理人弁護士が連帯して約140万円の損害賠償金を支払うことや、新聞への謝罪広告掲載を命じる判決を出した。

マスコミを通じた中傷・報道被害

ある雑誌で2014年12月、「いじめ事件は『モンスターマザー』のでっちあげ」とするルポライター名義の文章が発表された。

この文章では、加害者側の主張に沿った言い分が垂れ流されている。遺書が手書きの走り書きで字が乱れていたことを逆手にとり、遺書の文章は「お母さんがねたので死にます」ではなく、「お母さんがやだので死にます」と書いているに違いないとねじ曲げた。そして、「やだので」は長野県の方言では「嫌なので」の意味で使われる表現になる、だから自殺の原因は母親にあるという、主張をおこなっている。これは自殺事件直後に、加害者側の保護者側がおこなった主張の筋書に沿ったものである。また読み方によっては、母親がもっとひどいことをしていると受け取れるような内容にもなっていた。

さらに2017年10月には、この本を原作としたテレビドラマも放送された。

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