大阪府吹田市立小学校で2015年から2017年にかけて低学年女子児童へのいじめ事案があり、被害に遭った児童が骨折や精神症状発症などに追い込まれた事件。学校や吹田市教育委員会の対応の遅れが指摘された。
事件の経過
大阪府吹田市立小学校に2015年度に入学した女子児童は、1年だった同年秋頃から2年時の2017年3月にかけて、同級生の男子児童5人からいじめを受けた。
加害児童グループは、被害児童の足を狙ってボールを執拗にぶつける、足首を執拗に蹴りつける、階段や廊下で被害児童を突き飛ばすなどの暴力行為や、被害児童の持ち物を壊すなどの行為を繰り返しおこなった。
被害児童の自宅に加害児童が集団で押しかけ、被害児童宅に上がり込んで、被害者を殴ったり自宅トイレ内に閉じ込めるなどの暴力行為をおこなった上、家にあったお菓子を勝手に食べるなどの行為をおこなったとも指摘された。
加害児童は、同じ学校に通う被害児童のきょうだいにも矛先を向けた。被害児童に対して、きょうだいの悪口を言う・行動の真似をするなどした上、「先生に告げ口したらきょうだいにボールをぶつける」などと脅すなどの行為もおこなった。
加害児童が被害児童の足をめがけてボールを強くぶつけたことや足首を蹴りつけた行為を繰り返したことにより、女子児童は左足骨折や足の打撲・捻挫などのケガを負った。また心因性視力障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症した。いじめに関与した児童5人は、2017年に児童相談所に通告されている。
学校側の対応
1年時の対応
1年時の担任は、加害児童の一人が被害児童のきょうだいのものまねをしたことを現認し、その場で注意した。しかし1年時の担任が気づいたいじめはこの1回限りだったという。
一方で被害児童は1年の時点で、保護者に「たたかれる」などと訴えていた。被害児童の保護者は、「きょうだいが加害児童グループから嫌がらせを受け、被害児童も悩んでいる」ときょうだいの学級担任に相談し、1年時の担任にも情報が伝わっていたともされる。
1年時の担任は、いじめが始まった時期とされる2015年12月前後、体調を崩して欠勤しがちになっていた。欠勤時はほかの教員がカバーに入っていたものの、クラスの児童に十分に目が行き届かない状況になり、いじめの兆候に十分に気づくことができなかった遠因になったとも指摘された。
2年時の対応
被害児童は2016年度、2年に進級した。被害児童の保護者は4月の家庭訪問の際、当初の担任に対して、「きょうだいへのいじめのようなことがあったので注意してほしい」と伝えていた。
当初の担任は2016年6月に休職し、60代男性臨時任用講師が後任担任として着任した。
新担任着任直後に1学期の学校生活アンケートが実施された。被害児童は、学校生活アンケートに加害児童の名前を挙げて「けられた。なぐられた」などといじめ被害を訴えた。
しかし担任講師は「大したことではない」と扱い、事実関係の詳細な聴き取り・加害児童への指導・管理職への報告など必要な対応をとらずに放置していた。
またその後も複数回にわたり、席替えの際には被害児童の座席の近くに加害児童の座席を配置した。
2学期にも学校生活アンケートが実施されたが、学校は回答用紙を紛失し、記載内容は確認できなかった。3学期の学校生活アンケートにもこの児童がいじめ被害を訴える記述があったが、担任講師は特に何もしなかった。
学校側がいじめを認知
2年時の2017年3月2日、被害児童が保護者にいじめ被害を訴えた。
翌3月3日、保護者が学校を訪問していじめを訴え、いじめは学校側の認知するところとなった。いじめ被害が始まったとされる時期から約1年半が経過し、また児童がいじめ被害を訴えた1学期アンケートからは9ヶ月が経過していた。
この日は教頭と担任が保護者に対応した。しかしその際、担任は「いじめは知らなかった」などと答えた。さらに保護者が「加害児童と座席を離してほしい」と訴えたところ、担任は、実際は被害児童と加害児童とが通路を挟んで隣の座席になっていたにもかかわらず「座席は隣ではない」と嘘をついた。
その後複数回にわたって保護者と学校側との面談でのやりとりがおこなわれたが、教頭が対応し、校長は出てこなかった。校長は2017年3月9日になって初めて保護者と直接面談したが、いじめへの謝罪はなかったとされる。また校長が面談に現れた9日時点では、学校側が事案を認知してから5日目だったにもかかわらず、学校側は加害児童らへの事実確認も加害者宅への連絡もおこなっていなかったとされる。
校長は2017年3月10日、吹田市教委にいじめ事案認知の第一報を入れた。同日以降教頭が中心となって加害児童への聴き取りをおこなったが、「何をしたか」という行為の態様が中心で、「いつ頃」という時期については曖昧な聴き取り方となっていた。
学校側が対応中の2017年3月14日、被害児童は、加害児童のうち2人から、背負っていたランドセルごと引っぱられて後ろに転倒させられそうになった。児童はそのまま学年末まで登校できなくなった。
加害者側・被害者側双方の保護者からの要望もあり、学校側は双方の保護者の面談の場を設けた。いじめに関する事実確認は一定なされたものの、学校側は「場所を貸しただけ」という対応にとどまっていた。
被害児童が3年に進級した2017年4月、校長が他校に異動し、別の校長が着任した。新校長は2017年4月3日、「2年時のいじめアンケート原本を発見した」と被害者側保護者に連絡し、保護者も内容を確認した。
第三者委員会
被害者側保護者は、学校側にいじめ事案を連絡した直後の2017年3月、吹田市教育委員会にもいじめ被害を訴え適切な対応を要望した。その際に第三者委員会設置についても要望をおこなったという。被害者保護者は2017年6月、いじめ事案への対応と第三者委員会設置を求める手紙を、後藤圭二吹田市長宛に内容証明郵便で送付した。
またこれとは別個に、加害者側保護者の一部も2017年4月上旬、「事案を客観的に見てほしい」として第三者を入れての対応を要望した。
しかし吹田市教委は、要望を受けてもしばらくの間、市教委の「いじめ不登校虐待防止委員会」が主体となっての対応にとどまった。市教委は「被害者側から初めて第三者設置委員会設置要望の意向が伝えられたと認識したのは、2017年7月11日におこなわれた面談の時」だと主張した。
2017年7月21日、吹田市教委幹部が被害者側代理人弁護士の事務所を訪問し、市教委の調査報告の概要を説明した。その際に幹部は「現時点では第三者委員会を立ち上げる必要はないとの結論であると受け取っていただいてかまわない」「子どもたちの記憶が薄れており、もはや実体解明は難しい」と発言したという。
2017年7月27日、吹田市教育委員協議会が実施された。市教委事務局がこの件のいじめ事案について報告をおこなったところ、教育委員から「第三者委員会を設置した方がよい」という指摘がされた。第三者委員会設置方針は、さらに1ヶ月後の2017年8月24日の市教育委員会会議で正式に決まった。
第三者委員会は2017年10月以降、計15回の調査委員会会議と関係者への聴き取りなどの継続的な調査を実施した。
吹田市教委は2019年6月12日、第三者委員会の調査報告書を公表した。
関係教職員への処分
大阪府教育委員会は2019年11月29日、関係教職員への処分を発表した。
事件発生当時の男性校長(2017年4月に吹田市内の別の小学校に異動、2019年時点では他校校長)を戒告処分とした。また事件発生当時の女性教頭(2018年4月に吹田市内の別の小学校に異動。2019年時点では他校で校長に昇任)を厳重注意とした。
2年当時の担任だった男性講師については、期限付き任用講師ですでに任用期間が満了しているとして、処分できなかった。