「原発避難いじめ」問題

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2011年3月11日に発生した東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)とそれに伴う東京電力福島第一原発事故により、原発近くの地域から他県や福島県の他地域に避難した人が、周囲からいじめ・嫌がらせ・差別などを受ける被害が報告された問題。

大人に対するいじめ・差別の事案も多数報告されているが、ここでは主に避難した児童・生徒が転入先の学校でいじめ・差別を受けた、ないしはその疑いが強いとされた事例について取り上げる。

2011年の発災直後から発生

震災いじめ・原発避難いじめと思われるものは、2011年の発災直後から報告され、新聞報道されていた。

千葉県船橋市

千葉県船橋市では2011年3月末、福島県南相馬市から船橋市の親族宅に避難し、4月から現地の小学校に転校・入学予定だった、新5年と新1年のきょうだいが、船橋市の地元の児童から嫌がらせを受ける事件が起きた。

きょうだいは公園で遊んでいた。きょうだいが福島県の方言で話していたことを聞きつけた地元の児童数人がきょうだいに対し「どこから来たの」と尋ねた。きょうだいが「福島から」と答えると、地元の児童らは「放射能が移る」「わー」などと叫びながら逃げていったという。きょうだいと家族はこの事件にショックを受け、船橋市の小学校への転校・入学を取りやめ、4月からは福島市に再避難した。

新潟県長岡市立小学校

新潟県長岡市の小学校では2011年4月、新年度から6年として転入した福島県からの避難者の男子児童が、転入直後からいじめを受けたと訴えた。この男子児童は2011年4月、同級生の女子児童から腹を殴られるなどして一時入院するケガを負った。

一方で当該校は、震災・原発避難といじめとの因果関係は薄いと判断したとしている。

2016年秋に社会問題化

2016年11月、横浜市での「原発避難いじめ」が大きく報じられた。報道された2016年当時中学校2年だった男子生徒は、横浜市立小学校2年として転入した2011年当時から「菌」と呼ばれるなどのいじめを受け、小学校5年時の2014年には「原発事故の補償金をもらっているんだろう」などと言いがかりを付けられ、現金を恐喝されるなどのいじめを受けた。

横浜市立小学校原発避難いじめ事件
横浜市立小学校に通っていた男子児童が、東日本大震災に伴う福島第一原発事故での避難を理由に激しいいじめに遭っていたことが、2016年11月に大きく報道された事件。この事件の発覚を機に、全国各地で「震災いじめ・原発避難いじめ」の問題がクローズア...

この事件が報道されたことを機に、各地での「原発避難いじめ」の事例があちこちで報じられるようになった。

新潟市立小学校

新潟市立小学校では、2016年当時小学校4年だった避難者の児童が同級生から「菌」と呼ばれるなどしたと訴えた。さらに当該事案では担任教諭も当該児童を「菌」呼ばわりして不登校に追い込んだとして問題になった。

新潟市立小学校「菌」発言事件
新潟市立小学校4年の男子児童が2016年11月22日の昼休み、担任教諭から名前の後に「菌」を付けて「○○菌」と呼びかけられたことで登校できなくなった事件。この児童が東日本大震災・東京電力福島第一原発事故の避難者でもあり、震災・原発事故を理由...

新潟県・公立中学校

新潟県下越地域の公立中学校で2016年、当時1年だった女子生徒が、福島県からの避難で同地の公立小学校に転入した直後からいじめを受け続け、中学校進学後もいじめが続いていたと訴えていたことが発覚した。当該生徒は2016年6月、国語の作文の課題でいじめ被害をを訴えたものの、担当教員が「小学生時代の過去の経験」と誤認したとして見落とし対処されていなかったことも明らかになった。

新潟県公立中学校「原発避難いじめ」事件
新潟県下越地域の公立中学校1年だった女子生徒が2016年、同級生から「菌」などと呼ばれるいじめを受けて不登校になった事件。当該生徒は東日本大震災・福島第一原発事故で福島県から避難してきた経歴を持つことから、その経歴が影響した「原発避難いじめ...

川崎市立中学校

原発事故を受けて2011年に福島県から川崎市に自主避難し、2012年~15年3月に川崎市立中学校に通っていた生徒が、「近づくな」と避けられたり、「福島県民は奴隷だ」などと暴言を受けて暴力を振るわれたりするいじめを受けたと訴えていたことが、2016年12月に報じられた。

神奈川県集団訴訟

避難者が国と東京電力を相手取って訴えた原発事故神奈川県集団訴訟の原告団は2016年12月、神奈川県内に避難した避難者の子どもが避難先でいじめを受けた事例が少なくとも9人確認されたと発表した。弁護団が確認した事例には、先述の川崎市立中学校での事例も含まれている。また別の2人の児童生徒も不登校に追い込まれていた。「福島へ帰れ」と暴言を受けた児童生徒もいた。

千葉県集団訴訟

原発事故千葉県集団訴訟の原告団は2016年12月、千葉県内に避難した避難者の子どもが避難先でいじめを受けた事例が少なくとも3人確認したと発表した。「なんで福島から来るんだ」「福島のやつの意見は聞かない」などと暴言を吐かれて転校に追い込まれた事例や、「放射能が来た」などと言われた事例があったという。

東京都集団訴訟

原発事故東京都集団訴訟の原告は2017年1月11日の訴訟の口頭弁論で、「子どもが転入先でいじめを受けた」と訴えた。

最初に転校した都内の公立小学校では「福島から来た子は汚い」などと言われたり、「病気ですぐに死んでしまうのだから」と階段から突き落とされたりなどの暴行を受け、別の学校への転校を余儀なくされた。子どもは千代田区立中学校に進学したが、そこでも同級生からいじめを受けた。などと訴えた。

群馬県集団訴訟

原発事故群馬県集団訴訟では2017年3月17日、国と東電の責任を認め損害賠償を命じる判決が前橋地裁で出た。判決では、原告家庭の子ども数人について、転入先の学校でいじめを受け精神的苦痛を受けたことに言及した。

▼女子児童が、「気持ち悪い。近づくな、吐き気がする」というメモをかばんに入れられた。▼男子児童が、転入先の小学校で「福島君」などと呼ばれた。▼一度群馬県に避難したのちに福島県に戻った男子生徒が、「避難してきたのにまた戻ってきたのか」「逃げて行ったんだろう」と暴言を受けた。――といったケースをいじめだと認定したという。うち2人の児童生徒について、東電や国に慰謝料支払いを命じた。残りの児童生徒については、被害算定がすでに別途支払っている賠償金や慰謝料の額を超えないと判断し、それらの賠償金等と相殺する形で慰謝料を認めなかった。

千葉県・公立小学校

福島県から千葉県に家族で避難した女性とその父親は2017年3月、マスコミ取材に応じ、転校先の学校でいじめを受けたことを訴えた。

2011年、当時小学校6年だった女性が千葉県の小学校に転入した際、▼学校行事で同級生の母親からたばこの煙を顔に吹き掛けられ「福島に帰れよ」と暴言を受ける。▼同級生から「福島の人と一緒の学校は嫌だ」「被曝者と同じ意見だと嫌だ」などと何度も暴言を受ける。▼授業参観の時、当時小学校3年だったきょうだいが授業中に発言すると、ほかの保護者1人がきょうだいに対して「福島に帰れ。何しに来たんだ」と大声で暴言を浴びせる。授業中の教師や居合わせた保護者は誰も暴言を止めなかった。――といった被害があり、別の学校に転校したと訴えた。

文部科学省の調査

文部科学省は2016年度、震災・原発事故で福島県から避難した児童生徒へのいじめに関する統計調査をおこなった。

都道府県教育委員会を通じて2017年3月時点で集計したところ、避難児童生徒へのいじめは2016年度に全国で129件あったことを確認した。

うち、震災や原発事故が原因であると認定したのはこの時点では4件にとどまり、残りは「確認できない」とされた。

また文部科学省は、2016年度の認知件数とは別に、震災発生から2015年度の過年度についても、70件の避難者へのいじめがあったこともあわせて確認した。うち9件が震災・原発関連だとした。