名古屋市南区の名古屋市立明豊中学校2年の男子生徒が2013年7月、「死ねといわれた」などといじめ被害を示唆するようなメモを残して自殺した事件。生徒が自殺する直前、別の生徒から「死ね」などと暴言があったことが指摘された。
また担任教諭が当該生徒の自殺をあおると受け取れるような発言があったとする指摘が報道で報じられたが、担任教諭は発言を否定し、調査でも否定された。
事件の経過
名古屋市立明豊中学校2年の男子生徒は2013年7月10日午後3時すぎ、区内のマンションから転落しているところを発見され、病院に搬送されたが夕方に死亡が確認された。
生徒は11階から飛び降りたとみられる。生徒は以前、このマンションに住んでいたことがあるという。
当日は午後からの授業はなかった。当該生徒は午前中の授業終了後に帰宅し、外出していた母親が作り置いていた昼食を食べた形跡があった。母親は午後3時頃に帰宅したが、生徒は不在で「自殺しようと思ったのはなぜか。いろんな人から『死ね』といわれた」などと自殺をほのめかすような内容が記載されたメモが残されていた。メモを読んだ母親はすぐに学校を訪問して相談していた。午後3時30分頃に、「中学校の生徒と思われる子がマンションから落ちたらしい」と地域住民から学校に電話で情報提供があり、教員と母親が現場マンションに駆けつけて当該生徒だと確認したという。
事件当日、同級生が当該生徒に「死ね」と発言したと指摘された。
また報道では、同級生と当該生徒とのやりとりを聞いた担任の女性教諭(31)が当該生徒に対して「死ねるわけがない」「そんなのやれるもんならやってみろ」などと自殺をあおるような発言をおこなったと指摘された。
名古屋市教育委員会は報道を受けて担任教諭に事情を聴いたが「そんな発言はしていない」と否定した。担任教諭は名古屋市教育委員会担当者の同席のもとで2013年7月12日に記者会見をおこない、「学校で死ね・キモい・ウザいなどの言葉が飛び交っていたので、そのたびに注意してきた」「いじめはなかったと判断している」「自殺をあおるような発言はしていない」と話した。
名古屋市教育委員会は生徒にもアンケート調査をおこない、「クラスで死ねといわれていた」「文房具を落とされていた」など、いじめをうかがわせるような証言が複数あった。名古屋市教委は「伝聞などが多い」と判断し、いじめだとは断定しなかった。
検証委員会での調査
その後検証委員会が設置されて事件の経過の検証がおこなわれた。検証委員会は2014年3月27日に報告書を出した。
検証委員会では、当該生徒が小学校時代に数人の同級生から「きもい」「うざい」などといわれ、中学校進学に際して小学校からは「いじめられている」と申し送りがあったことを指摘した。中学校進学後も「死ね」などといわれたことがあった、またクラスの生徒から威圧的に取り囲まれることがあったと認めた。所属していたソフトテニス部でも、暴言を吐かれる、テニスボールをぶつけられる、胸ぐらをつかまれるなどの行為を受けたと指摘された。一方で検証委員会では、それらの行為が「いじめ」に該当するかどうかの言及はしていない。
当該生徒は1年時、別の小学校出身の生徒Bと同じクラスになった。当該生徒とBは仲がよいと思われていた一方で、「Bが当該生徒をいじめている・たたくなどしている。当該生徒がBを嫌がっている」などとする訴えも別の生徒から複数あったという。
1年時の担任教諭は、当該生徒とBの関係について「何かあっても多少の言い合い程度」とする見方をしていた。2年進級時の学級編成に際して、1年時の担任教諭は当該生徒について、「いじめられるなどの問題は今のところないが、対人関係を注視してみていく必要がある」という申し送りをおこなった。当該生徒とBとを同じクラスにしないなどの話が話題になったかどうかは、学級編成にかかわった学年主任などの教師は記憶にないとしている。結果的に、2年でもBと同じクラスになった。
1年時の担任教諭は、生徒が2年進級時に他校に異動した。2年時の担任教諭は、当該生徒が1年時は1年の学年担当・別のクラスの担任で、理科の教科担当として当該生徒の授業を受け持っていた。
当該生徒は理科が得意で、他教科も含めて全体的に学習の理解度も高いのに、提出物忘れが目立つとして各教科や学年担当の教師からは不思議がられていて、担任教諭も教科担当としても気になっていたという。
2年進級後、Bおよび1年時には別のクラスだった生徒Cと座席が近くになった。Bから「死ね」などの発言や「ちょっかい」をかけられることも多くなり、またCからも「死ね」「キモい」「ウザい」などといわれるようになった。
担任教諭は当該生徒とBとの関係について、Bが「ちょっかい」をかけるなどしていたが当該生徒が言い返すなどもあったことから、いじめではないと認識していた。また当該生徒とCとの関係については認識していなかったとしている。
自殺当日の4限目の英語の授業で、座席が近い生徒同士で班学習をおこない、当該生徒とB・Cが同じ班になった。班ごとのグループワークの際にB・Cと口論になり、Bが「死ね」と発言するなどした。4限目の英語の授業担当教員やほかの生徒は、グループワークで教室ががやがやしていたこともあって、この生徒の口論は聞いていないとした。
口論は4限終了後のホームルームの時間にも続いていた。BとCが当該生徒に「死ね、死ね」といい、Bが周囲に聞こえるくらいの声で「今日、(当該生徒)が自殺するんだって」と話し、担任教諭が当該生徒やB・Cに声をかけたと指摘された。
担任教諭の発言については、教諭本人は一貫して「当日のホームルームでは、ほかの生徒と当該生徒との口論は聞いていない。生徒に自殺を教唆するような声かけをおこなったことはない」と主張した。一方で検証委員会では、ほかの複数の生徒の証言から、担任教諭が口論を聞きつけて当該生徒に声をかけていたことは事実だと判断した。その上で、担任教諭の声かけの内容は、生徒の証言内容に多少の幅があるものの、いずれも正反対の「そんなことを言ってはいけない」という制止の発言だと受け止められるものとなっていて、担任教諭が自殺をあおったことはないと判断した。なお、担任はそれ以上の踏み込んだ対応をしなかったと指摘されている。
検証委員会は当該生徒の自殺の要因について、同級生からの「ちょっかい」、提出物忘れの問題など複合的なものだと判断した。