名古屋市西区の名古屋市立中学校1年だった男子生徒が2015年11月、いじめを訴える遺書を残して自殺した事件。調査でいじめがあったことが認定された。
経過
当該生徒は2015年11月1日午後3時54分、名古屋市営地下鉄の駅ホームから転落し、駅に進入した列車に接触した。病院に搬送されたが死亡が確認された。
生徒は約1時間前の午後3時頃、「買い物に行く」と言い残して自宅を出ていた。直後に家族が「学校や部活でいじめが多かった」「もうたえきれない。だから自殺しました」などと記されたノートを見つけ、生徒の携帯電話に連絡していた。電話に出た生徒は「大丈夫。冗談だ」と答えたという。
直後に学校がおこなった調査では、約80人の生徒が「いじめを見聞きした」と回答した。
生徒は小学校高学年の頃、同学年の女子児童から悪口を言われるなどのことがあったという。中学校進学に際しての小学校からの引き継ぎではいじめについての具体的な内容はなかったが、中学校は当該生徒について「いじめられやすい傾向があるので、注意してみていく」と認識していた。
担任教諭は当該生徒について「自分から積極的に声をかけてくるタイプではない」と認識し、教諭の側から積極的に声かけをおこなうようにしていた。しかし教諭の対応については、当該生徒だけでなくクラスのほかの生徒に対しても、顔を触ろうとする・抱きつこうとするなどのスキンシップを取ろうとする傾向が見られ、当該生徒は嫌がっていたとされる。担任教諭は「当該生徒が嫌がっているのかもしれない」と感じて接し方を変えることを検討していたところに、7月初旬の1学期末の面談で接し方の件で保護者から「子どもが嫌がっている」と指摘を受けたことで、当該生徒への接し方を変えたとしている。
クラス・学年では当該生徒に対して、体型をからかうなどの悪口などが断続的にあったことも指摘された。別の生徒が当該生徒の私物を音を立てて倒す、当該生徒を取り囲んで体操服のズボンを下ろす、ほかの生徒が当該生徒の弁当を勝手に取って食べるなどの行為もあったとされる。
生徒は中学校入学後に卓球部に入部した。卓球部では生徒の技術習熟度によって数段階のグループに分けて練習をおこなっていたが、当該生徒は技術的には下のグループに属していた。そのことでほかの部員から「弱い」「下手くそ」などと悪口を言われることもあった。2015年10月中旬には当該生徒が「部活でいじめられている。もうだめかもしれない」とほかの部員に発言した。また同10月下旬には「朝4時に起きて宿題を片付けようとしたことで寝不足になり、体調が悪い」として部活動を早退した。当該生徒の早退は、ほかの複数の部員の印象に残っているとされた。
家族によると、生徒は2015年9月~10月頃、不眠などの症状が現れるようになった。また死亡前日には親戚の子どもの前で、これまでの時間をかけて遊んでいたゲームのデータをすべて消去するなどの行動があったという。また死亡当日には、生徒が親に小遣いをねだるなどした。普段はそういう行動をしなかったことから、親はその行動が印象に残っていると話したという。生徒の死亡後、生徒のスマートフォンの通信記録を捜査した警察は、生徒が2015年10月下旬に「電車で死んだら交通費」と検索していた記録があったと、家族や教育委員会に情報提供した。
第三者委員会での調査
名古屋市教育委員会の検討会議は2016年9月2日、調査報告書をまとめた。
当該生徒が体型に関する悪口を言われていたことや、卓球部で「弱い」「下手くそ」などと言われたこと、ズボンを下ろされたこと、弁当を取られたことなどを事実と判断した上で、それらの行為をいじめだと認定した。
また生徒の自殺については、いじめが要因の一つと指摘した上で、生徒が優しい性格・物事に真面目に取り組む性格だったことで、学業面での負担、11月4日に実施予定だった合唱コンクール(自殺事案発生で中止)でのクラス練習の負担、部活動での練習の負担など、生徒に負担を感じさせる複数のできごとが重なったことも指摘した。