広島県府中町立府中緑ヶ丘中学校で2015年12月、担任教諭から「1年時に万引きをしたから高校受験の推薦は出せない」と身に覚えのないことを通告された3年の男子生徒が自殺した事案。
「万引き」記録は別の生徒と取り違えられたもので、この生徒は無実だった。しかしこの生徒が「万引きは身に覚えがない」と訴えても、担任教諭は取り合わなかったとされる。
事件の経過
2013年10月、同校の生徒が万引き事件を起こしたとする連絡が、被害を受けた店舗から学校側にあった。店舗からの連絡に対応した教職員は、生徒指導担当に事案を口頭で伝えた。その際に生徒指導担当教員は、事件とは無関係のこの男子生徒の名前を「万引き事件を起こした生徒」として記録用のサーバーに入力するミスをおこなった。
その直後、生徒指導担当者会議の資料として、生徒の問題行動一覧表リストを印刷し、紙資料で関係教職員に配布した。その際に「この生徒の名前が『万引き』で記載されているが、万引きには関与していない」と指摘があり、紙の文書ではこの男子生徒の名前を消し、事件を起こした生徒の名前に書き換えたという。しかしサーバーに入力した電子データは訂正されることなくそのまま残っていた。
2年後の2015年、3年生になった生徒は進路の面談の際、「万引きをした」と担任教諭から決めつけられる対応を受けた。生徒が「身に覚えがない」と釈明しても担任教諭は「記録に残っている」として一切聞く耳を持たなかった。
担任教諭はサーバーの電子データをそのまま使用し、1年次の担任・学年主任・生徒指導担当などほかの教諭に確認することもしなかった。
生徒は推薦入試での高校受験を希望していた。同校では、高校の推薦入試を受けたいと希望する生徒には、1年次の素行も含めた内容を推薦可否の基準にすることにしていた。しかも推薦基準変更は、生徒が3年時の2015年11月より急遽おこなわれたものだという。
担任教諭は「学校推薦入試は難しい」「万引きのことを親に話したのか」などと生徒を追い詰めるような対応をとった。学校推薦は無理と通告された直後の2015年12月8日、生徒は予定されていた担任・保護者との三者面談の場には現れず、自宅で自殺した。
民事訴訟
遺族は2018年12月5日付で、町に対して約6700万円の損害賠償を求め、広島地裁に提訴した。
訴訟では2019年12月より和解協議が進められた。2020年3月までに、「進路指導の重大な錯誤によって生徒が自殺したことを町が認め、和解金2800万円を支払う」方向での和解案がまとまった。
2020年3月16日の町議会で和解決議案が承認され、2020年3月25日に広島地裁で和解が正式に成立した。