愛知県一宮市立浅井中学校生徒自殺事件

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愛知県一宮市立浅井中学校3年の男子生徒が2017年2月に自殺し、担任教諭によるいじめ同然の行為が背景にあったと指摘された問題。

事件の経過

愛知県一宮市立浅井中学校3年の男子生徒は2017年2月6日午後、自殺をほのめかすような言動をおこなった後に行方不明になった。

同日午後11時40分頃、大阪市北区・大阪駅前の商業施設で飛び降り案件があった。飛び降りた人物は死亡した。飛び降りた人物がこの生徒だったことがわかり、翌日になって家族や学校に連絡が入った。

生徒は行方不明になる直前、同級生に自分の持ち物の携帯ゲーム機を預けていた。ゲーム機内には「本日をもって命を絶ちたい」「担任によって人生を壊された」とするメモが残されていた。

生徒は同日午後、一宮市から大阪駅まで電車で移動していたとみられる。

担任教諭との関係悪化

当該生徒は2016年秋、体育祭の組体操で両手骨折のケガを負っていた。担任教諭は事故直後、生徒の母親からの問い合わせに対して「用事がある。明日以降にして」と発言したとされ、母親は「子どもの事故を、担任が取り合わなかった」と受け取った。

一方で担任教諭はこの件について、「入院中の父親の見舞いに行く予定があった。保護者に対して、自身のプライベートに関わることを詳しく話すのはどうかと思って、その場では『用事』と表現した」としている。

また生徒は、担任教諭について「担当の英語の授業で、自分にだけプリント配りを集中的に押しつけられる」という不満も漏らしていた。

これらのことが重なり、生徒と担任教諭との関係は悪化し、2016年10月に母親が学校に相談している。保護者側は、担任教諭の言動について、「教師によるいじめ」だと受け取ったという。

学校側は、「担任交代は他の生徒にも影響が大きい」として担任交代には踏み切らなかったものの、給食指導やホームルームの際には別教員も補助で入ることや、担任教諭の担当教科である英語の授業では別の教師の授業を受講できるようにするなどの措置をとった。

しかし保護者側は「他の教員が補助に入ったのは数日だけ」と指摘した。

第三者委員会

学校側は第三者委員会を設置して調査をおこなった。

2017年8月24日に発表された第三者委員会の報告書によると、体育祭での両手骨折での対応をめぐって生徒側が不満を持ち、担任教諭と生徒との関係が悪化したことを指摘した。また、骨折によって受験勉強が思うように進まなかったところに、2017年2月の三者面談で、進路指導担当教員から「全部落ちたらどうする」という発言を受けたことでストレスが悪化したとも指摘された。

一方で、教諭が生徒にプリント配布を強要したことや「教師によるいじめ」は認定せず、学校側の対応が不適切だったのかどうかについては言及しなかった。

民事訴訟

生徒の家族は、事件から1年目の節目にもあたる2018年2月6日、学校側の対応が不適切だったとして、一宮市を相手取り損害賠償を求める訴訟を、名古屋地裁一宮支部に提訴した。損害賠償の請求金額は非公表とした。

遺族側は、両手の骨折や担任教諭との関係悪化で受験前に強いストレスを受けていたことや、心理テストで「支援が必要」と認定されていたのに学校内で共有しなかったことなどを指摘した。

一宮市は争う姿勢を示した。心理テストについては「要支援」判定が出たことは事実としたものの、「自殺の可能性につながる内容は含まれていなかった」「テストは学級集団の状況をつかむのが目的で、性格や人格を判断するものではない」「生徒は通常の学校生活を送っていた」として、自殺を予見することは困難だったとした。

名古屋地裁一宮支部は2020年11月12日、和解勧告案を提示した。原告側の主張をほぼ全面的に認める形で、学校側の安全配慮義務や自殺の予見可能性を指摘した上で、損害賠償請求額の9割にあたる和解金を一宮市が支払うとする内容となった。担任教諭との一連の関係で強い不安を抱いていたことや、進路指導の面談での進路指導担当教員の発言にも触れ、衝動的に自殺にいたる可能性が予見できたなどと判断した。

一宮市は2020年11月12日時点では「司法判断を真摯に受け止め、和解案を検討した上で協議する」とした。しかし市は、2020年12月市議会への和解関連議案提出を見送り、さらに2020年12月23日付で、「第三者調査委員会の報告書と差があり、和解案を受け入れるには至らなかった」と主張して、和解に応じず審理継続を求める上申書を名古屋地裁一宮支部に提出した。原告側代理人弁護士はこのことに関して「和解案は裁判所が双方の主張を踏まえて出したもの。今さら主張をする市に憤りを感じる」とコメントしたという。

その後審理が続けられ、2021年7月7日の協議で「市が学校側の責任を認めて謝罪し、和解金を支払い、再発防止策をとる」などとした裁判所の和解案を双方が受け入れる方針を決めた。

その後2021年9月29日付で、名古屋地裁一宮支部で和解が成立した。

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