鹿児島県出水市立中学校いじめ自殺事件

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鹿児島県出水市立中学校2年だった女子生徒が2011年9月1日に自殺した事件。背景にいじめがあったことが指摘されている。また教育委員会の隠蔽も問題になった。

当日の経過

2011年9月1日早朝4時過ぎ、この女子生徒が家にいないことに家族が気づき、同日午前4時半頃に警察に捜索願を出した。生徒は同日深夜2時半頃には家で寝ていたのを家族が確認していた。

同日午前10時過ぎ、自宅近くの九州新幹線の線路内で遺体が発見された。現場近くの跨線橋のフェンス(高さ約4メートル)に人がよじ登ったような痕跡が発見されたことや、当日午前6時20分頃に現場を通過した回送列車の車両に何かに接触したような痕跡があったことなどから、生徒は当日早朝、跨線橋から新幹線の線路に飛び込み自殺を図り、回送列車にはねられて死亡したとみられる。

生徒の通っていた学校では、当日は2学期の始業式だった。

教育委員会の対応

出水市教育委員会は生徒への調査の結果「いじめと死亡事故との因果関係は確認できない」と結論づけた。遺族側がアンケート結果の開示を求めても「二次被害が懸念される」などとして、調査結果の開示を拒否し続けた。

一方で遺族側の調査では、女子生徒が所属していた吹奏楽部で、生徒へのいじめがあったという証言を得られた。生徒の部活動ノートや部活動で使用している道具がなくなったこと、楽器を壊したとして他の部員から弁償を迫られていたこと、女子生徒はシャープペンシル集めを趣味にしていたがシャープペンシルが壊されていたことなどがあげられている。

教育委員会は遺族が指摘した内容について、「学校・教育委員会の調査でもそういう情報が得られた」とほのめかしながらも、「いじめは確認できない」という対応を変えていない。

遺族側が中心となり、市教委が実施したアンケート結果の開示を求める署名を集め、2012年8月に出水市教育委員会に提出した。しかし教育委員会は「開示することで二次被害が出る」などと主張して開示を拒否した。

出水市議会で生徒の自殺問題を取り上げ、アンケート結果開示を市教委に求めた議員も一部にいるが、大半の議員は市当局側と一緒になっている。出水市議会は2012年9月28日、生徒対象に行なった調査結果の開示・調査委員会の設置などを求めた、遺族や支援者が出した陳情を、賛成少数で不採択にしている。

遺族側が2014年に開示請求訴訟を起こした。鹿児島地裁は2015年12月15日、回答者の個人情報を特定できる範囲を除いた上で開示を命じる判決を出し、その後確定した。アンケート結果については、2016年になって一部開示されたという。

遺族への中傷

教育委員会関係者は遺族に対し「事故2週間前に接種した子宮頸がんワクチンの影響ではないか」と心ない言葉を浴びせかけた。遺族は医師に相談し、医師は「子宮頸がんワクチンとは無関係」とする所見を出している。

2012年8月、女子生徒が通っていた中学校の「保護者及びOB有志一同」「吹奏楽部保護者及びOB有志一同」の連名を名乗り、「生徒や卒業生が二学期から安心して学校に通えるようにするために」なる題名で、「いじめがあったかのようなテレビ報道」やインターネットの書き込みから「二次被害を防ぐ」などとした署名が地域で集められた。

主催者は「有志一同」を名乗っているものの、代表者の氏名や主催者の連絡先などは全く記されていない、誰が主催しているのかわからない正体不明の署名である。また署名の内容は、教育委員会の主張に沿ったものでもある。

人権救済申し立て

遺族は2012年2月、鹿児島県弁護士会に人権救済申立をおこなった。弁護士会は調査の結果、「いじめアンケートの内容などからはいじめを疑わせるに十分」などとして、2020年3月19日付で出水市教育委員会に対し、再調査を求める勧告をおこなった。

同校で発生した過去の事件

当該校ではこの事件のほか、過去にも2件の生徒自殺事件が発生し、いずれも背景にいじめがあったことが指摘されている。

1994年に発生した3年男子生徒自殺事件では、2011年の女子生徒の事件と同様、学校側は「いじめは確認できない」と結論づけたが、遺族側の独自調査でいじめをうかがわせる証言が複数出てきたという。

また2001年に発生した3年男子生徒自殺事件でも、生徒は上級生の同校卒業生から暴行を受けていたという証言があった。

遺族や支援者は過去の事件のことも指摘し、「4人目の犠牲者を出さない」ことも掲げて活動しているという。

民事訴訟

開示訴訟を受けて2016年に開示されたアンケートでは、いじめをうかがわせる複数の記述があった。遺族側がいじめ事件の再調査を求めたが、出水市は拒否したという。

遺族側は2017年5月23日、生徒の自殺はいじめが原因だとして、出水市を相手取り約1200万円の損害賠償を求めて鹿児島地裁に民事提訴した。

この訴訟では鹿児島地裁で和解協議がおこなわれ、2021年5月19日の和解協議で和解案の大筋がまとまった。出水市が和解金200万円を支払い、死亡後の調査や対応が遺族の期待に添うものではなかったことを陳謝するなどとした。

生徒の持ち物がなくなったことや暴言を受けたことなど、生徒がほかの生徒から受けた行為10項目については和解案の中で言及されるものの、その行為がいじめだったかどうかという判断には明確に踏み込まず、その行為と自殺との因果関係については言及されないとした。一方で和解案では「いじめの存在を想定して対応を検討すべき状態にあった」と言及され、遺族側は実質的に「いじめが認められたと思っている」と評価した。

出水市は2021年5月31日、和解に関する関連議案を市議会に提出した。出水市議会は2021年6月7日、和解関連議案を全会一致で可決・成立した。鹿児島地裁でおこなわれた2021年6月29日の和解協議で、和解が正式に成立した。

災害共済見舞金支給

学校事故・学校災害で死亡したり負傷した児童・生徒に、被害の状況に応じて災害共済の見舞金・給付金を支給する事務をおこなっている独立行政法人日本スポーツ振興センターは2013年、生徒の死亡を学校での活動に起因するものとは認定できないとして、死亡した生徒に支給される見舞金の不支給決定をおこなった。

しかし遺族側が、出水市との和解が2021年に成立したことを機に、センターに対して不服審査を申し立てた。同センターは2022年7月22日付で当初の決定を一転させ、生徒の死亡は「学校での教育活動に起因する」という判断をおこない、死亡見舞金を支給する決定をおこなった。

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