神奈川県川崎市多摩区の川崎市立南菅小学校で2000年、当時3年だった女子児童が、父親が外国人だったことから民族差別的ないじめを受けてPTSDを発症して転校を余儀なくされたと訴えた事件。
事件の経過
当該児童は、父親が外国人で母親が日本人だという。小学校1年の頃から、男子児童Aから「××人だからダメ」「ハーフだからいけない」など、民族差別的な暴言を受けていた。
2000年に3年に進級後、その男子児童Aを中心とするいじめグループができ、当該児童へのいじめが激しくなった。被害児童側によると、いじめに関与していたのは主に6人だったという。
「××人っぽい」「××国の服ばっかり着ている」などの差別的暴言や、この児童にだけ給食が配られないなどのいじめがあった。
保護者から担任教諭へ連絡をおこなったものの、担任教諭は「注意したい」と発言するだけで具体的な対応を取らなかった。保護者は学年懇談会でもいじめの件を訴えたものの、周りの保護者は「被害者側にも原因がある」などと扱った。
これらのいじめが積み重なり、児童の一家は2001年3月に転居と転校を余儀なくされた。しかし地域では「父親は暴力夫」「母親は子どものしつけができていない」「一家は金がほしいだけ」など、一家への事実無根の中傷が振りまかれていたという。
川崎市教委が事件を認める
川崎市教育委員会は2004年1月28日、このいじめ事件についての調査結果をまとめ、「民族差別を背景とした悪質ないじめ」とする教育長名の通知文をだし、被害児童と保護者に謝罪した。
川崎市教委は事件を把握した直後、事実関係調査のための聴き取りをおこなおうとした。しかし同校の教諭と保護者が妨害的な行動を取り、調査ができなかったとしている。
市教委は当初、同じクラス児童全員への聞き取り調査をおこなおうとした。しかし担任教諭が「子どもを傷つけるのでやめてほしい」と強く拒否し、また保護者も非協力的だった。そのため児童への聴き取りは、被害児童本人と、他の児童1人だけしかできなかったという。
川崎市教委は2004年3月11日、関係した教職員への処分を決定した。調査を妨害した中心となった男性教諭を戒告、校長を減給、教頭を戒告とした。
民事訴訟
被害児童側は、いじめの中心だった男子児童Aと女子児童Bについて、2004年4月14日付で児童の保護者計4人を相手取り、約740万円の損害賠償を求める民事訴訟を横浜地裁川崎支部に提訴した。
男子児童Aは、頭をたたく・髪を引っぱるなどの暴力行為を日常的に繰り返したとしている。女子児童Bについては、児童が暴力を受ける様子をいつも大笑いしていたこと、クラスの女子児童を集めて被害児童を無視するよう仕向けていたことを指摘した。当時の年齢を考慮すると、保護者に監督責任があるとした。
加害児童の保護者はいずれも全面的に争う方針を示した。
横浜地裁川崎支部は2007年12月21日、「いじめはあった」「保護者に監督責任がある」として、加害者側保護者に対して100万円の支払いを命じる判決を出した。一方で被害児童のPTSD罹患については認定しなかった。
川崎市とは示談成立
2010年1月20日、川崎市が治療費と慰謝料あわせて約276万円を被害児童側に支払う内容で、被害児童と川崎市との示談が成立した。