大阪市の小学校統廃合

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大阪市での小学校統廃合状況について記す。

歴史的な背景

大阪市では、太平洋戦争の戦災により人口・児童数が減少し、校舎・地域も被災したことで、終戦直後に国民学校(小学校)を大幅統廃合した。その後1947年の学制改革を挟み、地域の復興状況によって1950年代に復興・再開校した事例も生まれた。また周辺部などでは宅地化に伴う新設開校も相次いだ。

その一方で1970年代頃からは、都心部での人口ドーナツ化による児童数減少が課題になり、都心部の小学校の統廃合が取り沙汰されるようになった。さらに時代が進むと、周辺部の住宅地でも、地域人口減少と少子化・高齢化の進行による児童数減少がみられるようになった。

1986年に浪速区で、学制改革以降では初めてのケースとなる小学校統廃合をおこなった。それ以降1980~90年代にかけて都心部の小学校の統廃合がおこなわれていた。その後1995年を最後に9年間統廃合事例はなかったものの、2004年・2007年・2010年にそれぞれ統廃合がおこなわれた。

大阪市では2010年の学校適正配置審議会の答申で、適正な学級規模を「12~24学級」(1学年あたり複数学級)とした。規模を下回る学校については、学校規模や状況に応じて6段階に分類した上で、「児童数減少が顕著で今後も児童数増加の見込みが薄い」と判断される上位の分類にあたっている学校については、統廃合を含めた再編を積極的に進めるとした。

維新市政での統廃合加速

2011年12月、橋下徹が大阪市長に就任し、「維新市政」となった。橋下市政のもとでは、大阪市立小学校について統廃合を強力に進める方針をとり、2010年代には約290校あった市立小学校について、3分の2程度まで減らしたいともした。

橋下が打ち出した方針を踏まえ、大阪市では、教育委員会と各行政区の区長が連携して学校配置のあり方を検討し、積極的な統廃合を打ち出す方針を出した。

大阪市で同時期に導入された学校選択制についても、学校統廃合をしやすくする目的もあるのではないかと指摘された。

大阪市で2016年に出した答申では、適正配置の対象となった小学校は同一中学校区内の小学校同士での統合の手法を軸としながら、校区変更・中学校区をまたいだ統合なども地域の状況に応じて併用するとした。その際に地域合意が不可欠としている。

大阪市が打ち出した方針を機械的に当てはめると、80校以上の小学校が統廃合対象となるとみられる。

生野区での混乱

大阪市での学校大幅統廃合の計画を受け、生野区では生野区役所と市教委が「生野区西部地域学校再編整備計画」を出した。生野区では小規模校化が他地域以上に進んでいるとして、区西部の12小学校と5中学校を4小学校・4中学校に再編し、「1小1中」として小中連携教育をおこなうことを構想した。

しかし地域住民からは、通学環境の問題・地域環境の問題・拙速な進め方の問題などをあげて反対や疑問の声が出た。対象となったいずれの地域でも当初の「2016年に基本計画の合意」には至らなかった。

条例で統廃合促進

大阪市は2020年1月、大阪市立学校活性化条例を改正し、学校統廃合は市教委主導でおこなえることを明記する方向で検討するとした。

全国的にも、統廃合・学校再編などは地域住民の合意を経ておこなうのが望ましいとする文科省の指針があり、大阪市が行政主導で決めるとする条例は前代未聞で異例のものだと指摘された、

2020年2月には改正案を大阪市会2・3月議会に提案した。

条例案では、小学校の統廃合について、学校の適正規模を「12~24学級」と明記した(改定案第16条の2)。この規模については、大阪市教委審議会での2016年答申を反映していることになる。

その上で、学校の適正規模の要件を満たさない・今後も満たす見込みがないとみられる小学校を適正規模配置の対象とし、統廃合ないしは通学区域変更の手法によって、教育委員会が学校再編整備計画を「策定しなければならない」と明記した(改定案第16条の4)。

これでは、要件に当てはまった小学校は機械的に統廃合計画が出され、条例の枠組みとして無条件に進められるということが正当化されることにもなる。

保護者・住民からの意見については、「聴かなければならない」(改定案第16条の7)とは言及されている。しかしこの条文では、「統廃合には住民合意が必要」と明言してきた大阪市教委のこれまでの公式見解から大きく後退することになる。

生野区への対策?全市への波及

条例案は、生野区での統廃合計画がうまくいっていないことに業を煮やして狙い撃ち的に出したのではないかとする疑問も出された。

また統廃合条例案の素案を審議する大阪市総合教育会議(2020年1月開催)に出された資料で、生野区のPTA関係者や地元地域の関係者が「地下鉄の延伸がない限り学校統廃合は認めない」などと発言しているというものが出されたが、発言したとされる本人はそれを否定し抗議の意志を示している。当事者は「地下鉄や空き家対策も視野に入れた総合的なまちづくりをという発言はした覚えがある。しかし、地下鉄延伸と学校統廃合を引き換えにするような発言はしていないし、そんなつもりも一切ない」と訴えた。資料をまとめた区役所担当者が発言内容を改ざん・捏造したのではないかとする疑惑も出された。

またこの条例案では、生野区の当該地域だけでなく、全市にも問題が波及すると指摘されている。2019年度時点で単純に当てはめると、大阪市立小学校289校中、24区中鶴見区を除く23区、計84校が統廃合対象になるとされる。これを地元合意なしに教育委員会主導でまとめるのはおかしい、仮にしようとしても実務的にもパンクするのではないかとも指摘された。

統廃合に伴う問題

また大阪市では、小規模校化が進行する地域がある一方、大規模校化が進行している学校・地域もある。小規模校の統廃合を明記する一方で大規模校対策には触れていない、大規模校でも「体育の授業では児童がひしめき合っている。水泳の授業では、複数クラスが1時間の授業時間を半分に割って交代でプールに入っている」「会議室や特別教室を転用して普通教室にしている」など教育環境悪化の問題が出ているとする指摘が出た。

維新市政のもとで統廃合がおこなわれたある小学校では、「幹線道路を3本渡って通学する地域が出て子どもの通学が不安。見守り隊なども最初はついていたが今はなくなった」「統廃合後に地域の児童が急増して教室が不足し、校舎増築工事をおこなっている」「増築工事のために運動場が狭くなった。体育の授業は近くの移転した元特別支援学校跡地でおこなうとしていたが、実際には、体操服に着替えて移動するのは時間がかかって授業にならず、本校内の狭い場所で授業をおこなわざるをえない」といった指摘がされた。

改定条例案、維新と公明の賛成で可決・成立

改定条例案は2020年2月17日、大阪市会の教育こども委員会で、維新と公明党が賛成して委員会可決された。自民党と共産党は反対した。2020年2月21日の大阪市会本会議で、大阪維新の会と公明党の賛成で改定条例案が成立し、2020年4月1日に施行されることになった。

統廃合状況

2014年度以降の統廃合が「維新市政」によるもの。「維新以前」の25年間で11組と比較して、維新市政では2014年~20年の6年間で9組と、統廃合のペースが進んでいることになる。

「維新市政以前」の統廃合

  1. 浪速区 難波小学校・元町小学校→難波元町小学校を新設(1985年)
  2. 北区 堂島小学校・曽根崎小学校→堂島小学校を閉校、曽根崎小学校へ統合(1986年)
  3. 南区(現・中央区) 大宝小学校・芦池小学校・道仁小学校→南小学校を新設(1987年)
  4. 北区 曽根崎小学校・梅田東小学校→大阪北小学校を新設(1989年)
  5. 平野区 長原小学校・大和川小学校→大和川小学校を閉校、長原小学校へ統合(1989年)
  6. 中央区 愛日小学校・集英小学校→開平小学校を新設(1990年)
  7. 中央区 桃谷小学校・桃園小学校・東平小学校・金甌小学校→中央小学校を新設(1991年)
  8. 中央区 精華小学校・南小学校→精華小学校を閉校、南小学校へ統合(1995年)
  9. 北区 済美小学校・北天満小学校→扇町小学校を新設(2004年)
  10. 北区 大阪北小学校・扇町小学校→大阪北小学校を閉校、扇町小学校へ統合(2007年)
  11. 北区 中津小学校・中津南小学校・大淀小学校→中津南小学校を閉校、中津小学校へ統合。旧中津南小学校校区の一部を大淀小学校校区に編入(2010年)

「維新市政」での統廃合

  1. 浪速区 塩草小学校・立葉小学校→立葉小学校を閉校、塩草小学校へ統合。塩草小学校を塩草立葉小学校へ校名変更。(2014年)
  2. 西成区 弘治小学校・萩之茶屋小学校・今宮小学校→新今宮小学校(いまみや小中一貫校)を新設(2015年)
  3. 西成区 梅南小学校・津守小学校→津守小学校を閉校、梅南小学校へ統合。梅南小学校を梅南津守小学校へ校名変更(2015年)
  4. 大正区 鶴町小学校・鶴浜小学校→鶴浜小学校を閉校、鶴町小学校へ統合(2015年)
  5. 東淀川区 淡路小学校・西淡路小学校→西淡路小学校を閉校、淡路小学校へ統合。従来の淡路小学校を西淡路小学校(隣接型小中一貫校「須賀の森学園」)へ校名変更(2016年)
  6. 平野区 長吉東小学校・長吉六反小学校→長吉六反小学校を閉校、長吉東小学校へ統合(2016年)
  7. 浪速区 恵美小学校・日本橋小学校・日東小学校→浪速小学校(日本橋小中一貫校)を新設(2017年)
  8. 住之江区 南港緑小学校・南港渚小学校→南港みなみ小学校(咲洲みなみ小中一貫校)を新設(2018年)
  9. 西淀川区 佃西小学校・佃南小学校→佃南小学校を閉校し、佃西小学校へ統合(2020年)

「大阪市立学校活性化条例」改定以降の統廃合

  1. 生野区 御幸森小学校・中川小学校→御幸森小学校を閉校し、中川小学校へ統合。従来の中川小学校を大池小学校に校名変更(2021年)。
  2. 西成区 梅南津守小学校・松之宮小学校→松之宮小学校を閉校し、梅南津守小学校へ統合。従来の梅南津守小学校をまつば小学校に校名変更(2021年)
  3. 生野区 田島小学校・生野南小学校→2校を統合し、田島南小学校(田島南小中一貫校)を新設(2022年)
  4. 生野区 林寺小学校・生野小学校・西生野小学校・舎利寺小学校の一部(従来の生野中学校の通学区域)・生野中学校→4小学校と1中学校の計5校を統合し、「大阪市立義務教育学校生野未来学園」を新設(2022年)
  5. 生野区 舎利寺小学校を閉校。従来の同校校区の一部(従来の大池中学校の通学区域)を大池小学校校区に編入。大池小学校・大池中学校は従来の敷地を引き続き使用し、連携型小中一貫校「小中一貫校大池学園」として教育活動を開始。(2022年)
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