大阪市立中学校1年だった男子生徒が2018年1月に自殺し、背後にいじめがあったと指摘された事案。
経過
大阪市立中学校1年の男子生徒は2018年1月27日未明、自宅マンションから転落して死亡した。遺書などはなかったが、状況から飛び降り自殺を図った可能性が高いとみられている。
生徒は2017年4月に同校に入学した。
この生徒に対するいじめやそれに類する行為として、以下のようなものが指摘された。
当該生徒は小柄な体格で、幼少時からメガネをかけていたことから、同級生や所属するクラブの上級生から「チビ」「メガネ」などとからかわれるなどの行為が繰り返しあり、かけていたメガネを奪い取られるなどの行為があった。またこの生徒に対してほかの生徒が「上から目線」「イキっている」などの発言をしたり、LINEで中傷するなどの行為もあった。
同級生数名がこの生徒の持ち物の筆箱を取り上げ、キャッチボールのように生徒の筆箱を投げるということもあった。
当該校では、国語の授業で使用する国語辞典は教室の本棚に保管し、授業後には各自が本棚に返却するシステムをとっていた。夏休み明け以降3学期の生徒の自殺直前まで、複数の同級生がこの生徒に対して、クラス分の国語辞典を棚に戻すよう押しつけ、生徒の机に勝手に置くなどの行為を繰り返した。
この生徒は2018年1月22日に、部活動で上級生にプロレス技をかけられるなどの暴行を受けた。
当該生徒の死亡後の2018年1月30日、別の生徒の名前を挙げて「今日もまたいじめられた」などと記したメモが、生徒の自宅から発見された。当該メモの日付は2017年6月7日付となっていた。遺族が学校側にメモの存在を知らせ、学校側が関係生徒に事情を聴いた。しかしメモで記されていた件については、具体的な事実認定には至らなかった。
学校側の対応
当該校では2017年5月8日に「いじめアンケート」を実施した。生徒は「いじめを受けた。持ち物を隠された。閉じ込められた」などと回答した。
アンケートの内容を受けて担任教諭が聴き取りをおこなったが、担任教諭は「いじめは小学校時代の話」として扱った。聴き取り方法は、廊下での数分程度の立ち話だったという。また担任は、いじめの具体的な内容を聴き取らず、保護者や出身小学校への確認などもしなかった。またアンケートの記載内容についても、ほかの教職員と共有しなかった。
また当該校では2017年7月、選択肢に「当てはまる」「当てはまらない」の2択方式での「学校生活アンケート」を実施した。生徒は「仲間に入れてもらえないことがある」「陰口を言われているような気がする」「友だちにからかわれたり、バカにされることがある」「友だちにいやなことをされることがある」「友だちから無視されることがある」という問いに対して「当てはまる」と回答した。しかしこの回答について、学校側が何らかの対応をしたような形跡は見当たらなかったという。
生徒は2017年5月頃より、体調不良を訴えて頻繁に保健室に来室していたという。2017年10月30日にはこの生徒が「胸が痛い」と訴えて保健室に来室し、応対した養護教諭が「学校で嫌なことがあったのか」などと聞くと、生徒は涙を流しながら「ない」などと答えた。このことについて養護教諭は、担任や副担任には情報を伝えたものの、管理職には報告していなかった。養護教諭から情報を受けた副担任が事情を聴いたが、生徒は「何もない」などと発言した。この日以降保健室への来室記録は途絶えているという。
担任教諭は懇談会で、保護者に対して「いじめなどはない」などと話していた。
さらに一部の教職員もこの生徒への「いじり」に加勢していた。担任教諭はこの生徒に対して「メガネつぶしたろか」などとほかの生徒の前で笑いものにしたとも指摘された。
担任教諭は2017年9月、自身が担当する社会科の授業で、「世界の国調べ」として、生徒が選んだ国について調べ、そのまとめを文化発表会で展示する課題を出した。しかしこの生徒とほか数名の生徒の発表については「氏名のみ」の展示となっていたという目撃情報が指摘された。学校側は「展示方法は教科担当に委ねた」「担任教諭はその後退職し、詳しい事情を聴けていない」などとして、この事案の経緯については不明としている。一方で大阪市教委の担当者は「このような展示方法には教育効果は疑問。生徒が晒し者にされて恥をかくような形になる」としている。
事案発生後の経過
生徒の自殺直後、学校側は「警察が自殺と断定していないから、自殺前提での調査はできないと考えた」とした。
一方で2018年2月と3月の計3回にわたり、生徒宅に差出人不明の手紙が投函された。手紙は匿名ながら、内容からは当該校の教職員だとうかがわせるような形だった。2月9日に投函された1通目の手紙では「学校は都合のいいようにしか動いていない。こんな職場で働くのも辛い」などと記されていた。3月12日に投函された2度目の手紙では、「保護者が帰宅してすぐ、校長室から大笑いが聞こえた」などとする内容の文面が記され、校長らが保護者を笑いものにしているような会話とも受け取れる録音音声が入ったUSBメモリが同封されていた。3月19日、学級担任に関する内容が記された3通目の手紙が投函された。
学校側は2018年3月16日頃まで、調査の文面に「自殺」と入れることを拒否し続けていた。最終的には3月24日に、「自殺」の文面を入れたアンケートを作成して実施した。調査では、当該生徒が「チビ」「メガネ」などとからかわれていた、かけていたメガネを奪われていたなどとする、同級生からの証言が複数寄せられた。
2018年3月19日、生徒の自殺問題が大阪市会教育こども委員会で取り上げられ、また同日に大阪市教育委員会が概要を公表した。大阪市は市長部局に第三者委員会を設置して調査にあたる意向を示した。
第三者委員会は2018年5月に設置され、調査を経て2020年3月26日に調査報告書を提出した。
調査報告書ではいじめを認定したうえで、「法的な相当因果関係の意ではない」としながらも、いじめなどによって孤立した心理状態に追い込まれたことが自殺に影響を及ぼしたとした。また学校側の対応についても、▼いじめを前提とした対応になっていなかった。▼担任教諭が「大声で怒鳴る」「突き飛ばす」など威圧的な指導を繰り返していたことから相談できない雰囲気になっていた。――などと指摘した。
大阪市教育委員会は2020年9月10日付で、「いじめに関して不適切対応をした」として関係教職員4人への処分をおこない、同年10月12日に処分の事実関係を公表した。▼自殺した生徒への暴言があったとして、担任教諭(2018年5月に依願退職)を「文書訓告相当」と指摘。▼校長を文書訓告。▼学年主任を口頭注意。▼大阪市教委事務局の担当課長を事務局指導。