熊本県立東稜高校(熊本市東区)に2015年度に入学した生徒が、同級生らからいじめを受け、転校を余儀なくされた事件。
概要
生徒は2015年4月、熊本県立東稜高校に入学した。入学直後より、同級生からいじめを受けるなどした。
1年時の2015年7月、生徒Aら同級生グループ数人が、この生徒の机にケチャップを塗りつけるなどした。また同年の1学期には、生徒Aがこの生徒のカバンに醤油を付けるなどした。
また前後して、「別の生徒Bがこの生徒の髪の毛をあげつらうなどした」「生徒C・生徒D・生徒Eが、この生徒に英語のグループ課題を押しつけた」などした。
またほかにも、「生徒Bから、体育の水泳の授業中、首を後ろからつかまれ溺れそうにさせられた」「体育などの授業でペアを作るときにひとりぼっちにされた」「別の生徒から借りた剣道着を返すときに、生徒Dから『汗臭い』などといわれた」「いたずら電話を受けた」などの事案も訴えた。
ほかにも「生徒Bがライターを見せ、『髪を燃やそうか』と発言した」「連絡網で連絡が来ず、必要な情報が伝えられなかった」「生徒の持ち物がなくなったり壊されていたことが複数回あった」などの状況も指摘された。
生徒は1年時の2015年2学期より、欠席日数が増えるなどした。生徒は学校側に対して「いじめを受けて出席できない」と訴え、3学期より保健室登校になった。
2年進級時の2016年4月、学校側が当該生徒と加害生徒側の話し合いの機会を持ったが、うまくいかなかった。
2016年度、2年時には加害生徒とは別のクラスになった。しかし2年時には、すれ違った生徒から舌打ちをされる、すれ違いざまに「あいつ、いじめられていたやつだ」だとを悪口を言われるなどの状況もあった。
2016年4月に熊本地震が起き、学校は休校となっていた。生徒はその間、避難所となっていた同校に避難し、避難所でのボランティアに参加していたという。2016年5月に学校が再開したものの、再び欠席が多くなった。
生徒は2017年5月下旬に心療内科・精神科を受診していた。2017年12月に転学を申し出て、2018年1月より別の高校に編入した。
生徒は2018年、いじめについて学校側が対応した記録について、熊本県教委に開示を求めた。しかし「文書が存在していないので開示できない」とする回答だったという。
第三者委員会の設置
2019年、生徒側の要望で、学校の調査委員会が設置された。しかしこの委員会では、いじめの認定については言及せず、いじめと不登校に因果関係がないと判断した。
生徒は2018年7月、熊本県弁護士会に人権救済申立をおこなった。熊本県弁護士会は2020年12月15日付で、「いじめの重大事態と認定すべき」とする要望書を、学校に提出した。
学校側は弁護士会からの要望受け、2021年1月29日、学校から熊本県教育委員会に充てて「重大事態」の発生報告がされた。
その後学校のいじめ調査の第三者委員会が設置され、2022年10月3日に報告書がまとまった。
報告書では、机にケチャップを付けられたこと、カバンに醤油を付けられたこと、英語の課題を押しつけられたこと、すれ違いざまに悪口を言われたことなど7件を、いじめだと認定した。一方で水泳の授業中に溺れさせられそうになったこと一部のいじめ被害については「周囲の生徒の証言が得られず、事実関係を判断できない」などとした。
報告書については、生徒側には手渡されたものの、一般への公表はせず、要点を要約した「概要版」にとどめていた。
生徒側は全文公表を求めて熊本県教育委員会に申し入れた。熊本県教育委員会はそのことを受け、関係者個人が特定できるおそれのある箇所を黒塗りにした上で、2023年8月4日にウェブサイト上に公開した。しかしウェブサイト上にアップする文書の処理に誤りがあり、特定の操作をすると黒塗りが外れると指摘され、公開から数時間後に文書を差し替えた。
参考
同校では2021年度入学の別の生徒についても、いじめがあり転校を余儀なくされた事案があったとして、熊本県教育委員会が第三者委員会での調査をおこなうことを決めた。