秋田県立高校いじめ事件(2020年)

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秋田県能代市の秋田県立能代西高校(2021年度に統合で秋田県立能代科学技術高校に改編・移行)の農業科で2020年度、当時1年の男子生徒に対して、同級生の女子生徒がいじめをおこなった事件。

経過

秋田県立能代西高校に2020年度に入学した男子生徒は、2020年6月頃から、同級生の女子生徒3人からいじめを受けるようになった。

いじめの発端として、学年集会で教員が、当該生徒を指していると特定できる形での不適切発言をおこなったことがあったとされる。

加害者の女子生徒グループは聞こえよがしに「キモい」「目障り」「学校に来なきゃいいのに」などと暴言を繰り返した。加害者の一人が文化祭の準備をサボっていたことを注意されると、加害者の女子生徒は「あいつ(被害者の男子生徒)は障害者だから、あいつにやらせておけばいい」と吐き捨てるなどの差別的な発言もあったとされる。

また加害者グループは、売店で昼食を買うよう使い走りを強制する、男子生徒のロッカーにゴミを投げ捨てる、農業実習の際に鶏の糞で汚れた長靴を男子生徒の鼻先に突きつけて洗うように命じる、農薬のようなものが入った箱を投げつける、などの行為を繰り返したとされる。

生徒がいじめのストレスで倒れる

生徒は2021年1月18日、教室で意識を失って倒れた。保健室で休んだのち、保護者が迎えに行き、自宅で休ませた。その際にいじめ被害を保護者に話し、翌日保護者から学校に連絡した。

しかし学校側は「加害者とされる生徒に聴き取ったが、否定した」「いじめでの処分はしない」などという対応に終始し、加害者保護者への連絡も事件発覚から1ヶ月以上にわたってしていなかった。

生徒は倒れたのちも体調が回復せず、しばらく学校を欠席していた。この時点で「過呼吸などの症状が出ている。症状の原因はいじめ」とする診断書が出た。しかし学校側は、生徒の保護者から診断書を見せられた際、「高校でのいじめかどうかはわからない。小学校か中学校時代のいじめかもしれない」といったという。

自殺未遂事件

生徒は2021年2月2日、いじめを受けたとして加害生徒3人の実名を名指しし「君たちは人を殺したんだ。そのことをよく考え一生人を殺したことと向き合い生きていけ」などとする遺書を残して自殺を図った。遺書の日付は前日2月1日付になっていた。家族が異変に気づいて救出し、大事には至らなかった。

生徒は自殺未遂後、「重度のストレス反応」と診断され、診断書の中では「現在通学している高校でのいじめが原因と考えられる」と明確に指摘された。さらにその後2021年9月にはPTSDと診断された。

学校側は2021年2月9日、被害生徒と加害生徒との話し合いの場を設定した。加害生徒は「なぜいじめたのか」という問いに対して「はぁ?」と威嚇し、さらに「なんでお前(被害生徒)の話は聞かれて私たちの話は聞かれないのか?」と逆ギレしたことで、被害生徒の体調が悪化し、話し合いは打ち切られたという。

その後保護者と学校側との話し合いがもたれたが、学校側は「加害生徒がいじめを否定している」「暴言などは『別の人に対していった』と話している」「加害生徒の保護者への連絡はしていない」「学校としての懲戒処分などはできない」などという対応に終始し、物別れに終わった。

学校側はその後、暴言についてのみ加害生徒を停学処分にしたという。汚れた長靴を突きつけるなどの行為は「加害生徒が認めなかった」として処分対象にはしなかった。

加害生徒のうち1人はその後転校したものの、残る加害者は数日の停学処分だけで、何事もなかったかのように登校したという。

問題発覚後もいじめを継続

被害生徒は、学校側が「加害生徒を別室登校にする」意向を表明したことを受けて、能代科学技術高校2年への進級後の2021年4月より通学を再開した。

しかし2021年5月になり加害生徒の停学が明けると、別室登校の約束は反故にされて加害生徒と顔を合わせることになり、生徒は加害生徒の顔を見て倒れることも増えた。

加害生徒は被害生徒に対して「今度は死ね」「今すぐ退学しろ」などと罵声を浴びせ、陰口を振りまくいじめを繰り返した。加害生徒は被害生徒の保護者を「モンペ(モンスターペアレント)」とも中傷したという。

被害生徒側は代理人弁護士を交え、学校側に対して「加害生徒が被害生徒の視界に入らないように登校時間や動線を分ける。校内に加害生徒の立ち入り禁止エリアを設ける」などの取り決めを求めた。しかし取り決めは実際にはほとんど守られず、その後も加害生徒が被害生徒のところに近づいて威圧し、そのことで被害生徒が倒れた事例も複数回あったとされる。

週刊誌が加害生徒の家族に取材を試みた際、いずれの家族も「話すことはない」という対応だった。ある加害生徒家族は取材記者に対して「玄関に入ったら警察に通報する」と声を荒げ、別の加害生徒家族も「二度と来るな」と言い放ったとされる。

第三者委員会

秋田県教育委員会は2021年3月、当該いじめ案件をいじめ防止対策推進法28条の「重大事態」に認定した。認定は2021年8月に報道によって明らかにされた。秋田県での重大事態認定は、2015年に発覚した秋田県立能代松陽高校いじめ事件に次ぐ2例目となる。

2021年4月には第三者委員会が設置された。第三者委員会は2022年4月23日、加害生徒3人からの「『死ね』『ウザい』などの悪口・暴言を言われた」「ホースで水をかけられた」などのいじめ行為8項目を認定した上で、被害生徒の自殺未遂との間にも因果関係が認められる、学校側の対応にも遅れがあり十分とは言えないとする調査内容を生徒側に説明した。一方で、いじめのきっかけとなった教師の発言については認定されなかったことなど、不十分な点もあったとされる。

被害生徒側は「いじめと認定されたのは一部のみで、深刻かつ重大な内容が認定されていない。事実認定に誤りも多い。調査は不十分」と指摘し、再調査を求めた。第三者委員会は、生徒側の意見も踏まえる方向で、調査報告書をまとめる作業に入った。

第三者委員会は2022年11月24日、調査報告書の概要を秋田県教育委員会に報告した。「『死ね』『ウザい』などの悪口・暴言を言われた」「ホースで水をかけられた」「パンやジュースを買ってくるように命令された」など9項目についていじめと認定した。その一方で、「わざと通路をふさがれた」など3項目については、事実関係がはっきりしなかったなどと判断し、いじめとは認定しなかった。学校側の対応については、初期対応の遅れで事態を悪化させたなどと指摘し、「いじめの疑いを認識したら速やかに対策委員会を立ち上げて調査すること」や「学校は普段からいじめへの対処方針を示すなどして保護者と信頼関係を築くこと」など、再発防止に向けた提言をおこなっている。

民事訴訟

被害者側は2021年2月、加害生徒とその保護者を相手取り、再発防止と損害賠償を求める民事調停を起こした。

その後生徒側は2022年12月までに、秋田県と加害生徒3人を相手取り、計約715万円の損害賠償を求める訴訟を秋田地裁に提訴した。加害生徒については、いじめで精神的苦痛を受けたとして、3人が連帯して計440万円の慰謝料などを支払うよう求めた。また県については「いじめを把握したにもかかわらず、加害生徒への適切な対応を怠った」として、約275万円の損害賠償を求めた。

2023年1月27日に民事訴訟の第1回口頭弁論が秋田地裁で開かれ、秋田県はいじめと指摘された行為の一部を否認して争う方針を示した。一方で加害生徒1人については同日までに、保護者からの謝罪文や示談金支払いなどの内容での示談が成立したとして、提訴を取り下げた。しかし本人からの謝罪はなかったという。

別の1人は「争うかどうかわからない」と態度を保留した。残る1人は「ホースで水をかけるなどしたのは意図的ではない。障がい者発言については、発言者が特定されていない。生徒の外傷性PTSDは裁判での心労が影響している」と主張したという。

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