福岡市立小学校教諭人種差別的児童いじめ事件

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福岡市西区の公立小学校で2003年、4年生を担任していた教諭が担任クラスで、ある特定の児童が外国にルーツを持つことを知り、人種差別的ないじめを繰り返した事件。この教師を支援するジャーナリストの名義で、事件を「でっちあげ」などと正当化する書籍が出されるなど前代未聞の攻撃がおこなわれた。

経過

当該教諭・H(2003年当時46歳)は2003年5月、担任クラスの児童の家庭訪問の際、ある男子児童の曾祖父が外国人であることを知った。

その日以降Hは、児童に対して人種差別的な発言や「生きる価値がない、ここから飛び降りて死ね」などの暴言を公然と繰り返し、また「汚れた血を恨め」などといいながらその児童に暴行を加える・児童のランドセルをゴミ箱に捨てるなど、その児童への暴力・嫌がらせ行為を連日にわたって執拗に続けた。

保護者が2003年5月末に学校側に被害を訴え、事件が発覚した。また2003年6月6日には学校から最初の報告書が福岡市教育委員会に提出された。

学校や福岡市教委の調査に対して、Hは一貫していじめを否認した。しかし学校側がクラスの児童に対しておこなった調査では「クラスの児童のほとんどがHの暴行を目撃した」「クラスの児童の大半が『アメリカ人』などのHの発言を聞いた」「事件発覚後の一時期には監視役の教諭がクラスに付いていたが、Hはその教諭がいない時を見計らって暴行を加えた」「暴行が問題化した後は、Hは机をたたいて威嚇したり暴言を吐く回数が増えた」などの事実が判明した。

またH本人は、児童に「体罰」と称して暴力を加えたことなど一部については事実上認めたうえで、「軽微なもので大したことではない」「『体罰』は先輩教師から教わったコミュニケーションの手段」などと居直った。

福岡市教委は、同じクラスの児童の証言など多数の状況証拠に基づいて、Hによるいじめ行為は事実と判断し、2003年8月22日付でHを停職6ヶ月の懲戒処分にした。福岡市教委はHのいじめ・暴力行為を懲戒処分の対象とした。一方で「生きる価値がない、ここから飛び降りて死ね」の暴言など訴えの一部については、被害者側からの訴えを把握したもののその時点では事実関係を判断できなかったとして処分理由には含めなかった(2003年10月10日・福岡市議会平成15年決算特別委員会第1分科会、2003年12月15日・福岡市議会平成15年第1委員会)。

福岡市教委は当時、調査を続けた上で「今回処分において認定していない新たな行為や、あるいは処分後の行為で違法な行為や不適切な行為があれば、事実確認を行った上で必要に応じて適正に処分や指導を行っていく」(2003年12月12日・福岡市議会平成15年第6回定例会、教育長の答弁)とした。

しかし処分後もHは、児童の同級生に自宅に電話をかけ「(被害児童が)お宅のお子さんをいじめていたから注意しただけ」と嘘の内容を吹き込んで被害者一家を中傷する、被害者宅の近くに車を停車させて一家を監視するような行動をとったなどの行為をおこなったことも指摘された。

それらが引き金となり、児童は重度のPTSDを発症し半年あまりの入院治療を余儀なくされ、また転校を余儀なくされた。

民事訴訟へ

被害者は福岡市とH個人を相手取り民事提訴した。Hは「児童が言うことを聞かなかったのでたたいたことはある」と動機をゆがめて描きながらも、暴力の事実自体は自ら認めていた。

一審福岡地裁(2006年7月)で、事件の全体像からみれば不十分な形ながらも、Hが児童のランドセルをゴミ箱に捨てたこと・暴力を加えたこと・「髪の毛が赤い人」と発言したことなどいじめ行為を認定し福岡市に約220万円の損害賠償を命じる判決。一方でH個人への賠償請求は、国家賠償法を理由に退けられた。

被害者側は認定範囲が不十分として控訴した。

前代未聞の中傷書籍出版

一審判決がだされ控訴審が争われていた最中の2007年1月、あるルポライターの名義で、事件を正当化し「モンスターペアレントによるでっちあげ」と主張する書籍が発行された。加害者周辺からの口コミの形での被害者中傷はこれまでのこの手の事件でもよく見られたが、マスコミを使っての大々的な中傷は前代未聞だと思われる。

この書籍は「教師への一方的な報道被害」「センセーショナルな報道への批判」を主張の軸の一つにしているが、実際にはこの書籍自体がセンセーショナル報道をおこなって被害者に報道被害を与えることになった。

書籍やそれに追随した一部報道を盲信し、その筋書に沿って被害者親子を攻撃する文章をブログ等で発表する人物や、いじめ行為を批判するブログなどに対してコメント欄に突撃して内容を書き換えさせようとする人物なども多く現れた。

控訴審

裁判妨害戦術

控訴審では福岡市・H個人それぞれとの訴訟が争われていた。しかしHは、法廷内外で激しい中傷や嫌がらせ策動をおこなった。

被害者側は児童の心身の状況を考慮したことなどを総合的に判断し、H個人への訴訟を取り下げ、福岡市との訴訟一本に絞ることになった。

中傷本によると「不利になったから取り下げた」「Hに証言をさせない裁判戦術」などとしている。しかしHは福岡市の補助参加人として名を連ね、「暴力やいじめなどをしていない」という主張を好き放題おこなった上で、二審判決へとつながっている。

いじめを一審以上の範囲で認定した二審判決が確定

二審福岡高裁は2008年11月25日、一審よりも賠償金を増額し、福岡市に対して330万円の支払いを命じる判決を出した。

高裁判決では一審判決に引き続き、耳を引っ張るなどの暴力・ランドセルをゴミ箱に捨てた行為などのHのいじめ行為・暴力行為を認定した。またHの言動を「体罰・いじめというべき不法行為」と指摘し、違法性があるとした。

一方で判決では、Hの暴力・いじめ行為とPTSDとの因果関係については認めなかった。しかしいじめとPTSDとの因果関係こそ明確に認定しなかったものの、「Hのいじめ行為によって心因性の症状を発症して治療の必要があった」と一審以上に踏み込んで認定し、賠償金を増額している。

高裁判決も、いじめの事実認定の範囲こそ不十分ではある。しかしHによるいじめの基本的な事実関係は認められている。 したがって、H側の「事件は虚言癖のある保護者によるでっちあげ」という主張は、高裁判決でも完全に否定されたことになる。

福岡市は2008年12月4日、二審判決を受け入れて上告しないことを表明した。また原告側も2008年12月8日、「いじめを明らかにでき、正義はあると確信した。これからも前向きに頑張って生きていきたい」(被害児童のコメント)として、上告しない方針を表明した。双方が上告しなかったため、2008年12月10日午前0時をもって判決が確定した。

判決確定後も中傷が続く

二審福岡高裁判決確定後も、控訴審判決の内容を踏まえた上で判決を都合の良いようにゆがめ、「被害者=モンスターペアレントのでっちあげ」かのように中傷する動きが続いている。

中傷本の著者は、判決確定を受けてもなお、事件の経過をゆがめて被害者を攻撃する文章を繰り返し週刊誌で公表している。2009年2月・2013年5月にそれぞれ、中傷文章が発表されている。また2010年1月には、中傷本の内容を焼き直した文庫版が発売された。

人事委員会・教育委員会の不可解な措置

当該教諭・Hは教育委員会から停職処分を受けたが、処分を不服として再審を申し立てた。一方で被害者が民事訴訟を起こしていたことを理由に、判決結果が確定するまで再審については保留されていた。

前述のとおり、民事訴訟では教諭のいじめ行為を明確に認定した判決が確定した。Hへの処分に対する再審の手続きが再開されたものの、福岡市人事委員会は2013年1月、判決を完全無視しHの主張に沿った形で、事件は大したことのない「体罰」であり処分するまでもなかったとして、停職処分を完全に取り消す不当裁定をおこなった。福岡市教委も不当裁定を受け入れ、処分取り消しが確定した。

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