熊本県立高校1年だった女子生徒が2013年に自殺し、背景に同級生の女子生徒からのいじめがあったと指摘された問題。LINEでの中傷など「ネットいじめ」もあったと指摘された。
経過
女子生徒は2013年4月、熊本市内の熊本県立高校に進学した。県内の遠隔地出身だったため、学校の生徒寮に入寮した。
入寮後、寮の同級生がこの生徒に対して、食事や風呂などの当番を一方的に押し付けた。生徒が拒否したことに同級生は逆恨みし、いじめがエスカレートした。
身体的特徴をからかうような暴言を受ける、生徒の持ち物が隠されるなどしたほか、「LINE」に悪口が繰り返し書き込まれ、「出てこい」「レスキュー隊を呼んでおけ」など脅迫の書き込みもあった。
学校側は事件を把握して、関係生徒への指導をおこなっていた。
夏休みになり、生徒は実家に帰省したが、その際に家族に「学校をやめたい」と漏らしていた。生徒は2013年8月17日、自宅で自殺した。遺書はなかったという。
学校・第三者委員会の調査
学校は2016年2月に調査報告書をまとめた。いじめ行為5件は認定しながらも、自殺との因果関係は否定した。生徒の家族が調査結果に不服を申し立て、第三者委員会が審理していた。
熊本県の第三者委員会は2017年7月14日、生徒へのいじめを認定した上で、自殺との因果関係については判断できないとする調査結果を、蒲島郁夫熊本県知事に答申した。第三者委員会では、学校側が認定した5件に加えて、LINEグループの画像に生徒の画像を使用し、生徒を中傷するような侮辱的なグループ名をつけたことを、新たにいじめと認定した。その一方で、遺書など明確な資料が残されていないとして、いじめと自殺との因果関係は認定しなかった。
刑事処分
被害生徒の遺族は2014年、「加害生徒の行為は、被害生徒への脅迫罪にあたる」として、加害生徒を刑事告訴した。熊本家庭裁判所は、加害生徒のLINE送信について脅迫の非行事実として審判開始の決定をおこなったが、その後2015年、加害生徒による脅迫の非行事実を認定した上で不処分とした。
民事訴訟
生徒の遺族は2016年7月17日、熊本県と加害者の生徒を相手取り、損害賠償を求める訴えを熊本地裁に起こした。請求額は非公表とされたが、数千万円単位と推定されている。
遺族側は「加害生徒側のLINEでの脅迫行為は重大な人権侵害」「学校側が適切な対応を取っていれば自殺は防げた。学校の対応は不適切だった」と指摘した。
熊本県は「いじめではない」「学校側の対応も適切だった」として、加害生徒側は「けんかにすぎず、いじめではない」として、請求棄却を求めて争った。
熊本地裁は2019年5月22日、加害生徒のネット書き込みと、自殺した生徒の中学校時代の卒業アルバムに加害生徒が落書きをしたことについて不法行為と認定し、加害生徒に対して11万円の支払いを命じる判決を出した。加害生徒に対する部分はその後確定した。
一方で、熊本県への請求は棄却した。判決では、担任教諭の安全配慮義務違反については言及した。しかし寮生の生活指導を担当する舎監の教員の対応については、教員が双方の生徒への指導をおこなったことなどをあげて「適切さを欠くとはいえない」「いじめと判断しなかったからといって、安全配慮義務を欠くとはいえない」などとした。学校側の対応と自殺との因果関係についても認定しなかった。
原告側は舎監の責任が認定されなかったことを不服として控訴した。福岡高裁は2020年7月14日、舎監がいじめを「単なるけんか」と扱って校内で情報共有をしなかったことなどを安全配慮義務に違反すると指摘し、不適切な指導で生徒が精神的苦痛を受けた、いじめや不適切指導によって生徒の自殺を誘発した可能性が高いと認定して学校側の責任を認め、一審判決を変更する形で、熊本県に220万円の支払いを命じる判決を出した。一方で自殺の予見可能性については認定しなかった。
熊本県は福岡高裁判決を受け入れる方針を表明し、二審判決が確定した。