奈良県橿原市立中学校いじめ自殺事件

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奈良県橿原市立中学校1年だった女子生徒が2013年3月、いじめを苦にして自殺した事件。学校・市教委が隠蔽するような対応が問題になった。

経過

奈良県橿原市立中学校1年だった女子生徒は2013年3月28日、自宅近くのマンションから飛び降り自殺した。

遺族は当初「原因に心当たりはない」とした。しかし生徒が持っていた携帯電話に「みんな呪ってやる」と記された未送信メールが残されていたことや、複数の同級生が「この生徒へのいじめがあった」と遺族に情報提供したことなどから、いじめが浮上した。

生徒は2012年の2学期頃から、同級生の女子グループから無視されて孤立させられる、「LINE」で悪口を振りまかれる、面と向かって家庭環境などを中傷される、部活動では上級生から腹を蹴られるなどされていたという。

自殺直前には、この生徒が「これはいじめ、死にたい」などと漏らしていたことが指摘された。また自殺の2日前には、いじめ・中傷に耐えかねた生徒が加害生徒に反撃し、担任教諭が仲裁に入って加害生徒に謝罪させる指導をおこなったことなどがあったという。

事件の隠蔽と思われる工作

生徒の自殺後、ある保護者が、この生徒は「蝶々かトンボを追いかけて落ちた」などと同級生の保護者間に振りまき、不慮の事故という印象操作をおこなっていた。さらにこの保護者は、生徒の遺族を訪問して同様の趣旨を述べたという。この保護者の娘が、いじめ加害者の一人だったと指摘された。

学校や橿原市教育委員会は、生徒の自殺後に校内でアンケート調査をおこなった。アンケートでは、生徒へのいじめがあったとする証言が複数寄せられたものの、校長や市教委は「いじめの可能性は低い」と扱った。校長は保護者説明会で「いじめはなかった」と発言したという。

遺族は2013年6月、遺族側推薦の調査委員を含めて、市長部局での第三者委員会を設置して調査するよう要望した。しかし橿原市教委は「委員は選定済み」などとして、市教委側の委員だけで構成した第三者委員会を開くことを一方的に通知した。調査委員会の委員には、市の顧問弁護士も含まれていたとされる。

さらにいじめ防止法を逆手に取り、「教委や学校による調査より前に、市町村長が調査することを想定していない」「委員構成は、推薦に基づくことを条件としていない」と主張したともされる。

当初に設置された調査委員会では、市の顧問弁護士だった委員が自発的に辞任するなど、委員全員が交代した。その後改めて新しい調査委員会が再設置された。

また遺族側が調査アンケートの開示を求めたことに対し、「遺族側が内容を公表しないこと」「調査委員会の最終報告書がまとまるまで、遺族側が同級生に直接接触しての独自調査をしないこと」を交換条件として突きつけた。遺族側はこの条件を拒否し、2013年7月に遺族側が記者会見をおこなって一連の経過を公表した。

調査アンケートは2013年7月下旬に開示され、いじめの疑いがあると指摘された内容は約40件以上が指摘された。

改めて設置された調査委員会でいじめ事件の調査を進め、2015年4月23日に「いじめがあり自殺の原因の一つとなった」「学校はいじめを放置した」などとする調査報告書をまとめた。

訴訟

遺族は2015年9月1日、いじめに関与したとされる加害生徒4人とその保護者、および橿原市を相手取り、約9700万円の損害賠償を求める訴訟を奈良地裁に提訴した。

2020年5月26日の口頭弁論では、生徒が当時所属していた部活動の顧問教員が遺族側証人として出廷し、いじめの状況や学校側の対応について証言した。学校関係者が遺族側の証人として証言するのは、異例の展開となる。

顧問教員は「この生徒は死亡1~2ヶ月ほど前から、同じ部活動グループから仲間はずれにされ、部活動でも孤立していた。孤立の原因は、部活動の中では心当たりがない」「担任だった教員はいじめを把握していたが、自殺した生徒のことが気に入らないとして、苦しい目・痛い目に遭ったらいいなどと陰口をたたいていた」などと証言したという。

また同日の口頭弁論では、自殺した生徒と仲がよかった同級生も証言した。自殺した生徒が「仲間はずれにされていて死にたい」と話していたのを聞いたとした上で、担任教員と相談する関係性はなかったことなどを証言した。

一方で2020年6月9日の口頭弁論に担任教諭が出廷して証言し、いじめによる自殺という指摘を否定した上で、「いじめられていたとの報告はなかった」「自殺の一報を聞いて驚いた」などと証言した。

加害生徒のうち2人とその保護者とは、2021年3月18日付で奈良地裁で和解が成立した。和解内容は非公表とした。一方で残る2人の加害生徒、および橿原市とは和解には至らなかった。

奈良地裁は2021年3月23日、いじめがあったとは認められず、教諭の自殺予見可能性もなかったとして、遺族側の請求を棄却した。

遺族側は一審判決を不服として、2021年4月5日付で大阪高裁に控訴した。しかし大阪高裁は2023年5月26日、一審判決を支持し、遺族側の控訴を棄却した。

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