東京都町田市立小学校いじめ自殺事件

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東京都町田市立小学校6年だった女子児童が2020年11月、同級生の実名を名指しして「いじめられた」とするメモを残して自殺した事件。学校側の不適切対応が指摘された。

また、児童の通っていた学校はICT教育推進校で一人一台の端末が貸与されていたが、端末の運用体制に不適切な点がありいじめのツールとなった疑いがあるとも指摘された。

事件の経過

児童は2020年11月30日午前0時過ぎ、自室で自殺しているところを発見された。児童の部屋から、同級生2人の名前を名指しして「いじめられている」「こいつらのために自分は死ぬ」「もうラクになりたい」などと記載されたメモが見つかった。

児童の保護者は同日のうちに学校側と面会し、メモの存在を伝えた。保護者は児童の死亡までいじめに気づいていなかったというが、学校側はいじめの情報を把握していたことが明らかになった。

学校によると、2020年9月のいじめアンケートで、児童がいじめを訴えていたことを把握し、関係児童に指導して「解決済み」としていた。また加害児童が当該児童を名指しして「○○(児童)のころしかた」と記載したノートを作成し、学校側がそのノートの存在を把握して学校で保管していたという。これらの情報は保護者には連絡されず、児童の自殺後に初めて家族に伝えられたとしている。

保護者がいじめアンケートの内容を閲覧したいと求めても、学校側は「開示できない」とするなどの対応を取った。

保護者が独自に同級生に聴き取りをおこなうと、児童がいじめられていたとする証言が複数の同級生から寄せられた。メモに名指しされていた同級生の女子児童2人とそのほか2人の女子児童、計4人がいじめに加担していたとされる。無視される、仲間はずれにされる、学校から配布されたインターネット端末のチャットに当該児童を名指しして「まじキモイ」「ウザイ」「死んでほしい」などと書き込まれるなどのいじめがあったと指摘された。いじめは児童が4年の頃から始まっていたともされた。

学校端末経由でのチャットについては、加害者とされる児童の一人が「自分が書き込んだ」と担任教師に話していたことや、別の複数の児童が書き込みを目撃していたことを学校側が把握していたことが明らかになった。しかしログについては、学校側は「ログが消えている。見当たらなかった」などとし、開示できないと主張した。

家族は当初「他の児童の精神的動揺を避ける」として、児童の自殺を伏せる意向を伝えていた。その後同級生が「不登校」と認識して手紙を児童宅に届けるなどの状況が起きた。これらの状況を受け、家族は「事実を隠す形になっているのは辛い。児童が自殺した事実を公表したい」とする方向に転じ、学校側にその旨を伝えた。しかし校長は当初「(加害者が)後追い自殺する危険性」などとして拒否した。

学校側は2021年1月に学年の臨時保護者会を開き、校長が児童の死亡の事実を伝えた。保護者会の翌日にはクラスで児童の死亡が伝えられた。しかし児童が死亡した状況については、校長は「遺族の意向で公表できない」と虚偽の理由を話し、自殺の事実には触れなかった。

その直後、PTA会長が「児童の死亡について、自分のところにも問い合わせが多数来ている。いじめで亡くなったという噂が広がっているので、そのことについてきちんと伝えてほしい」と校長に申し入れた。校長は「2021年1月半ばに予定されているPTA代表委員会で、会場からの質問という形で出れば回答する。しかし質問の際に『いじめで亡くなった』とはいわないでほしい。いじめと亡くなった理由は別」と求めた。

家族がPTA代表委員会の開催を知り、出席して説明したいと申し出ると、校長は家族の出席を止めようとした。家族は強行出席して校長の説明を聞いていたが、家族が会議で発言しようとすると校長は席を立ったという。家族は出席者の前で、児童の自殺の事実を明らかにした。

学校側は2021年2月にも臨時保護者会を開催して、児童が自殺したことを認める説明をおこなったが、学校側は「いじめは解決済み」「いじめと自殺には因果関係はない」と主張した。

2021年2月下旬、校長を東京都内の別の自治体の教育長に任命する人事が当該自治体議会で承認された。校長は年度末の2021年3月31日付で東京都教職員を定年退職の上で、翌4月1日付で教育長に就任した。

町田市教育委員会は当該案件について、常設の第三者委員会での調査をおこなうことにした。しかし遺族側が委員会の構成や運営方法などに疑問を示し、独立性の高い第三者組織での再調査を求めていた。

「ICT教育推進校」での不適切と思われる運用

当該校でのICT教育活用の体制も、いじめの手段のひとつとなったのではないかと指摘された。

当該校の事案発生時の校長は、長年にわたって情報教育・ICT教育の研究・実践に携わり、ICT教育の第一人者の一人だともされている。情報教育・ICT教育に関連する文部科学省の審議会の委員なども歴任している。

政府が「GIGAスクール構想」を打ち出したことも背景に、当該校は町田市のICT教育の研究校に指定され、2019年半ばには他校に先駆けて「一人一台」のChromebook端末配布が実現し、授業など教育活動で活用していた。当該校が研究校に選ばれた背景には、校長の存在も大きかったとされる。

校長は、当該校でのICT活用について取材を受けた際、「自主性の中で、失敗から学ばせる」「端末利用についてはあえて細かなルールを作らずに、児童生徒が自主運営できるような方策をとり、それがおおむね成功している」という趣旨を話したという。

しかし実際は校長の評価とはかけ離れた状況が生まれていたと指摘された。

各児童のログインIDは「クラスと出席番号」、パスワードは全員共通のものにしていたとされる。そのことで、他の児童のIDを勝手に使ってログインする「なりすまし」が常態化し、別の児童になりすまして悪口などを書き込む・他人の作成途中の授業課題を消したり落書きするなど、いじめにつながるトラブルが多発したと指摘されている。しかも、「なりすまし」被害を恐れて自主的にパスワードを変更した児童に対しては、教師が「勝手に変えるな」と叱る事例まであったともされる。

町田市教育委員会は2020年5月の時点で、市内の各学校に対して、端末パスワードの変更・個別設定を求める通知を出していた。しかし当該校ではいじめ事案発生時点でも変更されていなかったとされる。

学校側は生徒の死亡後の2020年12月中旬になって突然、児童のアカウントを作り直させ、パスワードも個別設定にする対策を取った。しかし方針変更などについての理由の説明はなかったという。

事件が報道される

家族と代理人弁護士は2021年9月13日、「いじめ防止法に基づく適切な対応」「新たな要綱に基づく第三者委員会の設置」「1人1台のタブレット端末体制のもとでのいじめ対策の再点検」を求めて文部科学省に要望をおこない、記者会見でいじめの事実関係を公表した。いじめの経過は各マスコミで大きく報じられるに至った。

文部科学省は翌2021年9月14日、町田市および東京都の各教育委員会の担当者から事実関係を聴き取った。文部科学省は遺族の立場に立った対応を求め、また「端末の共通パスワードなどは不適切」とする見解を出す指導・助言をおこなった。

町田市議会では2021年9月17日に文教社会常任委員会が開催され、いじめに関する教育委員会からの説明、および議員の質疑がおこなわれた。

校長が2021年度に教育長に転出した自治体では「2021年9月以降報道がおこなわれていることは承知している。前任地でのできごとであり、当自治体として対応する権限はない」とした。

第三者委員会を設置

町田市は2021年9月22日、市長部局に独立の第三者委員会を設置する意向を、市長の記者会見で発表した。

第三者委員会は2024年2月21日、調査報告書を公表した。報告書では、ほかの児童がチャットで当該児童について、「うざい」「死んでほしい」などと書き込んだことをいじめだと認定した。一方でいじめと自殺との因果関係については、「複合的な要因がある」として断定は困難だと結論づけた。

遺族側は2024年3月28日に記者会見した。第三者委員会の調査報告書について、認定範囲ではいじめの一部でしかないと指摘した上で、遺族が要望した全児童へのアンケート調査もされていないなど不十分な調査だとして、同日までに町田市に対して再調査を要望したことを明らかにした。

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