北海道立高校で2013年3月、当時1年の男子生徒が自殺し、背後に部内でのいじめや顧問教諭からの不適切指導があったと指摘された事件。
経過
札幌市内の北海道立高校に通い吹奏楽部に所属していた当時1年の男子生徒は2013年3月3日、当日は日曜日だったが「部活動に参加する」として自宅を出たまま登校せず、札幌市営地下鉄の駅で列車に飛び込み自殺した。
かねてから部員の間で、LINEでの悪口などのいじめがあったと指摘されていた。2013年1月、この男子生徒が別の部員Aとメールのやりとりでトラブルになった際、部員Aは「男子生徒からのメール内容」とされるもののスクリーンショットを吹奏楽部のLINEに貼り付けた上で「消えろ」などとこの生徒を中傷した。
吹奏楽部の顧問教諭は、男子生徒のメールとされる内容に「(Aを)殺す」などの文面があったとして、2013年2月に男子生徒を呼び出して指導するなどした。しかし顧問教諭はこの生徒のみを一方的に叱責し、「消えろ」などとLINEで暴言を書き込んだ相手のAや、他にもLINEで生徒を中傷していた別の部員については、一切の指導をおこなわずに不問にした。
顧問教諭は、この生徒が「部内の秩序を乱した」として、全部員の前で謝罪させた。
生徒は自殺の前日・2013年3月2日にも、部の規則に違反した疑いがあるとして、顧問教諭から退部の可能性をちらつかせながらの長時間の叱責を受けた。その際に顧問教諭は「世の中では立派な犯罪だ」「名誉毀損で訴える」などと生徒を脅すような発言をおこなったとされる。
顧問教諭は、吹奏楽部のほかの部員に対して、この生徒について「連絡があっても応じるな。関わったら危険な目に遭う」と発言し、この生徒を無視するよう仕向けた。
生徒は翌3月3日に自殺した。
生徒は自殺直前「叱られた内容に心当たりはない」とするメールを、吹奏楽部の部員に宛てていた。また生徒は自殺前日、「顧問から『もう誰とも連絡をとるな、行事にも参加しなくてもいい』と言われた」と母親に訴えていた。
生徒の自殺当日、生徒が部活動に顔を見せていないことに気づいた顧問教諭は「あいつはもうダメだ」と言い放ったことが指摘された。また翌日、生徒の自殺を部員に伝える話し合いがもたれた際にも、顧問教諭はこの生徒について「あいつは最後までダメだった」「最後まで部活を乱していた」など暴言とも受け取れる内容を交えた説明をおこなったとされる。
民事訴訟
遺族側は2016年3月、「顧問教諭から不適切指導を受けたことが自殺の原因」として、北海道を相手取り約8400万円の損害賠償を求める訴訟を、札幌地裁に提訴した。
札幌地裁は2019年4月25日、「吹奏楽部の部内でのいじめ」や、「顧問教諭の指導と自殺との因果関係」を認定しなかった一方、生徒の死後に学校が実施した調査アンケートの結果を学校側が破棄したことは不適切という点のみ認め、北海道に対して約110万円の損害賠償を命じる判決を出した。
遺族側は一審判決を不服として札幌高裁に控訴した。札幌高裁は和解を打診した。遺族側は顧問教諭の行為の検証などを求めたが、北海道は「一審判決を上回る条件での和解は難しい」と拒否し、和解交渉は決裂した。
札幌高裁は2020年11月13日、一審判決を支持し遺族側の請求を棄却する判決を出した。自殺前日の顧問教諭の指導については「ていねいな事実確認がなかった。ほかの生徒との連絡を禁止した理由も判然としない」などとして「不適切だった。組織的な対応をすれば自殺は回避できた」と一歩踏み込んで認定したものの、自殺の予見可能性は否定し、一審に引き続いて賠償責任はないと判断した。アンケートの取り扱いが不適切だった点についてのみ、一審判決に引き続いて認定して110万円の損害賠償を命じる判決となった。