広島県竹原市の小学校で2005年、4年生担任の教諭が児童に包丁を突きつけた事件。教諭は停職処分になったが、処分明けに復職する際の不適切対応も問題になった。
事件の経過
広島県竹原市立中通小学校で4年生を担任していた教諭・I(45)は2005年6月3日、「男児らが教室で遊んでいて、別の女児にぶつかった」などとして、関係した児童を注意した。
その際Iは、1人の男子児童・Aくんの態度が気に入らなかったとして激高。直前の理科の授業で果物を切るために使用した包丁を持ち出し、包丁を約15センチの至近距離からAくんに突きつけた。この事件はAくんのほか、多数の児童が目撃していたという。目撃した児童の一人が大声で叫んだため、Iは我に返って包丁を突きつけるのをやめたという。Aくんやほかの児童にけがはなかった。
Iはこの件について「カッとなって包丁を突きつけた。大声で叫んだ児童がいなければ、どうなっていたか分からない」と、すなわち刺していたかもしれないという趣旨を、事件直後に話していた。
包丁を突きつけられたAくんは、事件をきっかけに強い心身症状が出るようになった。
当時のM校長は、発生直後に事件を把握しながら、1週間ほど放置して対処しなかった。またIは、2005年7月中旬に問題が地元紙に報道されると「精神疾患」を理由に休職した。
広島県教育委員会は2005年8月12日付で、Iを停職3ヶ月の処分にした。また「速やかな報告を怠った」などとして、校長も戒告処分にした。
復職の際の不適切対応
Iは依願退職せずに教職にとどまった。手続き上、Iの所属先は、停職処分が切れたあとも元の中通小学校にあった。
Iの復帰について、学校側は2006年新学期からの中通小学校での復帰を画策した。2006年3月、復帰に向けて、停職処分前まで担任していた4年生のクラスで授業を観察させる研修をおこなおうとした。
しかし研修初日の2006年3月9日、Iの姿を見た児童は、ショックから相次いで体調を崩した。「次は自分が刺されるのではないか」という恐怖感を感じた児童もいたという。児童の様子や保護者の抗議などのため、学校側は研修を撤回した。
2006年4月、M校長が竹原市内のほかの小学校の校長に転出した。3月まで東広島市の別の小学校校長を務めていたH校長が中通小学校に赴任した。
H校長は、広島県教委が出した方針に基づき、Iを中通小学校で研修させることに固執した。Aくんの保護者に「Iを1ヶ月中通小学校で研修させないと、Iの他校への転出は認められない」などと迫った。AくんはIの話題になるだけでも強い心身症状が出ることから、保護者が「息子は怖くて学校に行けなくなる。1ヶ月も学校を休めというのか」と問い返すと、H校長は「休んでもらうと助かる。Aくんが学校に来ても責任を持てない」などと暴言を吐いた。
また加害教諭・I本人にも、反省の色はみられないという。Iはマスコミ取材に対し「『君たちが遊んでいたボール遊びも危ないし怖いが、先生が包丁を突きつけるのも怖いだろう』と教育目的で冷静にやった」「そのことについて、大声で叫んだ子がいるから教室の雰囲気がおかしくなった」などと自己正当化を図ったうえで「教壇に戻りたい」としたという。
2006年11月、問題の全容がマスコミ報道されて初めて、広島県教委は「他校での研修もありえる」と方針転換した。