東京都八王子市立中学校2年だった女子生徒が2018年8月に自殺を図り、その後死亡した事件。背景に、1年時に所属していた部活動でのいじめがあったと指摘された。
経過
女子生徒は2017年度に八王子市立中学校に入学し、陸上部に入部した。
しかしこの生徒が、ケガのため練習に参加できない状態になったことや、家族旅行のために部活動を欠席すると申し出たことなどが重なったことで、LINEで「(家族旅行に行ったのは)自慢ですか」などと上級生から非難されたり、部内で無視されるなどのいじめを受けた。生徒はその後不登校になった。
2017年9月にはいじめ被害を顧問教諭に相談した。学校側は、部活動内でのやりとりについて顧問教諭が聴き取りをおこなった結果、「上級生がLINEで強くいいすぎた。その件については当該上級生が謝罪した」とするトラブルと扱い、「解決した」「いじめがなかった」と認識して扱っていた。
報道によると、学校側は当時、「当校の生徒には悪い子はいない」などと扱って、生徒に転校を促すような対応を取ったとも指摘されている。
生徒は2年進級時、別の八王子市立中学校に転校した。しかし転校先の学校でも登校できない状態が続いた。また転校後も、SNSで生徒の悪口が流されるなどのいじめが続いていたともされる。
生徒は2018年8月、八王子市内の鉄道駅で列車に飛び込み自殺を図り、その後死亡した。「部活動でトラブルがあった」「まわりが助けてくれなかった」「学校に行きたかった」などとするメモが残されていた。
1年時に在籍していた学校は、2018年9月10日に生徒の家族から連絡を受け、自殺の事実とメモの存在を把握した。
第三者委員会
当該事案では第三者委員会が設置され、調査がおこなわれた。第三者委員会は2019年8月30日に調査報告書を公表した。
2019年の報告書では、SNSでの悪口などのいじめの事実は認定した一方で、「不登校の長期化・転校・進路不安などほかの要因があるのではないか」なとどして、自殺との因果関係については認めなかった。
遺族側は第三者委員会の報告内容を不服として、再調査を求める要望を出した。これを受けて設置された再調査委員会では2021年5月、いじめがあったと引き続き認定した上で、「自死の直接の原因となった心理的苦痛等に一定の影響を与えたものと考えられる」として自殺との因果関係についても認定する再調査報告書をまとめた。
災害見舞金問題
この事案について、学校の災害共済事務を担う独立行政法人日本スポーツ振興センターが、死亡見舞金の申請を却下し、不支給としていたことが、2023年2月までにわかった。
センター側は、SNSでのいじめの時期がはっきりしないなどと判断した。また学校では「体罰」や暴言などの不適切指導がなかったなどともして、安全が脅かされる状況ではないと判断した。これらのことを勘案し、学校の教育活動に起因する自殺とは認められないと判断した。
一方で関係者は、「部活動の現場での態度による心理的ないじめがあったことが、市教委の調査報告書では認められているのに、当該判断では抜け落ちている」「学校がいじめを調査しなかったことも問題とされた」などと指摘し、センター側の対応に疑問を呈し、2023年5月に不服審査を申し立てた。
その後センター側は再審査をおこない、2023年8月9日付で、当初の対応を変更して不支給決定を取り消し、死亡見舞金と医療費約2800万円を支給する決定をおこなった。