福島県郡山市立中学校「体罰」賠償金訴訟

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福島県郡山市立中学校で2001年に発生した「体罰」事件をめぐり、被害生徒側への賠償金負担をめぐって福島県と郡山市が争った事件。最高裁では市が全額負担するとした判決が確定した。

「体罰」事件

福島県郡山市立行健こうけん中学校で国語を担当していた男性教諭(当時31歳)は2001年5月、授業を担当していた2年生のクラスで「授業中にクラスが騒がしかった」として、学級副委員長だった男子生徒に対し、「前に出ていすの前にたち、静かにさせろ」と命じた上、授業を途中でうち切ってこの生徒をトイレに連れ込み、生徒に対して怒鳴りつけた上に足蹴りを繰り返した。その上加害教諭は、「『体罰』を他言すれば高校受験をできなくしてやる」などと、生徒をさらに脅したという。

被害を受けた生徒は、このショックで不登校に追い込まれた。

生徒と保護者は、郡山市と福島県を相手取って「体罰で精神的損害を受けた」として損害賠償訴訟を起こした。福島地裁郡山支部は2004年7月6日、教諭の「体罰」を認定し、郡山市と福島県に対して、連帯して50万円の支払いを命じる判決を下した。

その後二審の仙台高裁では、双方に和解を勧告した。生徒側と郡山市は和解協議に応じたが、福島県は和解協議を拒否した。

2004年10月25日、「郡山市が不適切な内容を認めて謝罪し、生徒が損害賠償請求を放棄する」という内容で、生徒と郡山市との和解が成立した。

一方2004年10月25日に、生徒側が福島県に対する控訴を取り下げた。そのため福島県が生徒に対しておこなっていた付帯控訴が失効し、民事訴訟法の規定により一審福島地裁郡山支部の判決が確定し、福島県のみに損害賠償責任が残る形になった。

生徒に支払った賠償金をめぐる県・市の争い

福島県は生徒側に賠償金を支払ったが、郡山市に対して教師の管理責任として、支払った賠償金相当額の50万円の補償を求めた。一方で郡山市は、福島県の人事上の責任などを主張し、福島県と郡山市との交渉は平行線をたどった。

福島県は2005年11月までに、郡山市を相手取って、生徒に支払った50万円を補償するよう訴訟を起こすことを決めた。福島県は、訴訟の方針について2005年12月の定例県議会にはかり、県議会で可決された。その後2006年2月14日、福島県が既に原告に支払った賠償金50万円について、「教師の管理監督責任は本来、市にある」として、郡山市に支払いを求める訴えを福島地裁に起こした。

福島地裁は2007年10月16日、「郡山市の管理監督責任は大きい。一方で福島県の任命権者としての責任もまぬかれない」として市と県の賠償割合を2:1と算定し、賠償金59万円(遅延損害金も含む)のうち39万円を郡山市から福島県に支払うよう命じる判決を出した。

福島県は2007年10月28日、「賠償金は郡山市が全額支払うべき。仮にこの判決を受け入れてしまえば、今後同様の事件が発生した場合、この判決が先例となって県に損害賠償の負担が求められることが想定されるので、とうてい承服できない」などとして、一審福島地裁判決を不服として控訴した。

一方で郡山市は2008年1月15日、「郡山市と生徒との間では和解が成立している」として、福島県の控訴棄却を求めて仙台高裁に付帯控訴をおこなった。

二審仙台高裁は2008年3月19日、一審判決を破棄し、「教職員に関する県の負担は人件費に限られ、教育活動で発生した賠償債務まで負わない」などとして福島県の主張を全面的に認め、郡山市に事件の監督責任があると判断して郡山市が全額負担するよう命じる判決を出した。

郡山市は2008年3月31日、「教員人事権を実質的に握っている県にも一定の責任がある。県に責任がないとした判決は承服できない」などとして、二審判決を破棄して一審判決を妥当とするよう求め、最高裁に上告した。

最高裁は2009年10月23日、郡山市の上告を棄却し、二審判決を支持して郡山市が全額負担するよう命じる判決が確定した。

影響

学校で教師が不法行為をおこなったことに伴う事件・事故の賠償について、都道府県は責任を負わず、市区町村が責任を負うと判示した判決は、他の訴訟にも影響を与えた。

福島県須賀川市で柔道部員の生徒が上級生から練習を装った暴行を受けて重体になり、また顧問教員の管理責任も問われた事件(須賀川事件)では、福島県と須賀川市が連帯して賠償金を支払う判決が2009年3月に出た。

須賀川市は「被害者の早期救済」として、判決確定直後に一度市の予算から賠償額を全額立て替えて被害者側に支払った。福島県の負担分については、負担割合を算定して須賀川市から福島県に相当額を求償するとした。しかしこの「体罰」賠償金訴訟の判決が確定したことを受け、福島県への求償は断念した。

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